メキシコで硫黄粒子をばら撒いた地球工学ベンチャーの言い分
あるスタートアップ企業が、地球温暖化を阻止する取り組みの一環として、大気中に粒子を放出したという。同社は道徳的に正しいことをしていると主張するが、多くの専門家は同社の行為を厳しく批判している。 by James Temple2023.01.10
メイク・サンセッツ(Make Sunsets)というスタートアップ企業が、気象観測用の気球を打ち上げ、反射性のある硫黄粒子を成層圏に放出することに成功したと主張している。太陽地球工学(ソーラージオエンジニアリング)分野で論争の的となっている一線を越えた可能性がある。
その一線とは、大規模な火山噴火の後に起こる自然のプロセスを模倣し、意図的により多くの太陽光を宇宙空間に反射させることにより、気候を操作しようとする取り組みを指す。理論的には、硫黄などの粒子を大量に噴霧することで、地球温暖化を緩和できる可能性がある。
成層圏でそのような化合物を放出することは、技術的には難しくない。しかし、科学者たちはこれまで、小規模な屋外実験でさえも自制してきた(まったく実施しなかったわけではない)。過去に地球工学関連の研究として、大気圏の特定の層に物質を投入した例があったかどうかも、不明である。
その一因は、大規模な意図的介入が現実世界に及ぼす影響については、まだほとんど分かっておらず、その是非について意見が分かれているためだ。危険な副作用が起こったり、影響が地域間で不均一になったりする可能性がある。また、地政学的紛争につながる恐れもある。
太陽地球工学の研究者の間からは、今回の事態を深く憂慮する声も上がっている。メイク・サンセッツが、幅広い社会の関与や科学的な精査を一切無視して、メキシコの拠点からの打ち上げを進めてきたように見えるためだ。同社はすでに、より大きな積載量を運べる気球を飛ばすことで、「冷却クレジット」を販売する計画を立てている。
MITテクノロジーレビューの取材に応じた複数の研究者は、このような早い段階で地球工学を商業化しようとする同社の取り組みを非難した。メイク・サンセッツの提案を検討した投資家や潜在顧客の中には、これは真面目な科学的取り組みでもなければ、信頼できるビジネスでもないと主張する者もいた。むしろ、この分野で論争を引き起こすために計画された、注目集めの行為だという。
メイク・サンセッツの共同創業者であるルーク・アイゼマン最高経営責任者(CEO)は、今回の取り組みがある面では起業家的な行為であり、ある面では地球工学分野の現状改革を目指す挑発行為であることを認める。
アイゼマンCEOは、物議を醸しているこの分野で一歩前へ踏み出すことによって、幅広い社会的議論の促進につなげたい考えだ。太陽地球工学はこれまで、批判を浴びる中で小規模な野外実験を進めるという大変な困難に直面してきた。メイク・サンセッツがこの分野を前進させる助けになることを期待しているのだ。
「メイク・サンセッツは企業でもあり、カルト集団でもあります。半分冗談ですが、半分は本気です」と、アイゼマンCEOは言う。
ワイ・コンビネーター(Y Combinator)のハードウェア部門でかつてディレクターを務めていたアイゼマンCEOは、今回の一歩を踏み出したことで、地球工学の批判者と研究者の両方から強い非難を浴びるだろうと予想している。そして、「自分をジェームズ・ボンド映画の悪役のように見せることが、特定のグループを助けることになる」と認識している。それでも、気候変動は深刻な脅威であり、世界はこれまでこの根本的な問題への対処があまりにも遅かったため、より大胆な介入が必要だと言う。
「私の考えでは、太陽地球工学をやらない方が道徳的に間違っています。できる限り迅速かつ安全に実行しなければなりません」。
乱暴で時期尚早
しかし、この分野を熱心に研究する専門家たちは、このような取り組みは時期尚早で乱暴なやり方であり、アイゼマンCEOの期待とは逆の効果をもたらす可能性があると考えている。
太陽地球工学を「実行するのはもちろん、拒絶するにしても、あるいは受け入れるにしても、科学の現状は十分整っていません」と話すのは、カーネギー気候ガバナンス・イニシアチブ(Carnegie Climate Governance Initiative)のヤヌス・パシュトール事務局長だ。同イニシアチブは、政府、国際協定、科学機関に対し、地球工学やその他の気候変更テクノロジーを監視するよう求めている。「現段階で進めるのは、 …
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