2017年版ブレークスルー・テクノロジー10の発表にあたって
2017年版ブレークスルー・テクノロジー10の発表にあたって、米国版のジェイソン・ポンティン編集長が、選考の背景について説明する。 by Jason Pontin2017.02.23
MIT Technology Reviewは毎年、前年に大きなブレークスルーを果たした10のテクノロジーを選んでいる。どのテクノロジーも、各分野で明らかな進歩のあったイノベーションである。
MIT Technology Reviewは2002年から最も影響力のあるテクノロジーのリストを毎年発表してきた。ただし、間違うこともある。以前、ソーシャルメディアとテレビ放送が融合する (「ソーシャルテレビ」参照)と予測したがそうはならなかった。ソーシャルメディアとテレビ放送は同時に体験できる別々のメディアであり、アメリカ人は大統領候補の討論会をテレビで見ながら、自分の印象をツイートした。間違ったというより、早すぎたことも多い。医師が患者の腫瘍の突然変異のゲノム配列を分析し、最も役立ちそうな医薬品を適合させるがんゲノミクスは、全遺伝子配列の決定が高価だった頃にはあまり実用的ではなかった(「がんゲノミクス」参照)。
では、MIT Technology Reviewは何を好んでブレークスルーとして取りあげるのか? 私たちは学際的に考えている。ある分野の発展が、別の分野の進歩にどうつながるのか、その過程に知的好奇心をかき立てられるのだ。人工知能に起きたブレークスルー(「深層学習」参照)は、自動運転車を実現させようとする起業家や発明家に不可欠のテクノロジーだ(「テスラ・オートパイロット」参照)。世界中の人にインターネット接続を提供するグーグルの計画など、壮大な解決策をMIT Technology Reviewはたたえる(「プロジェクト・ルーン」参照)。さらに、高度で繊細なアイデアとその破壊力を称賛する。科学者がクリスパー(CRISPR)で2匹のマカクザルの遺伝子を操作し、遺伝子編集による巨大な可能性を証明した時、私たちは身が震える思いだった(「遺伝子編集」)。
2017年のブレークスルー・テクノロジー10も、MIT Technology Reviewの同じ嗜好が反映されている。「強化学習」は人工知能(AI)をさらに進展させる手法だ。コンピューターは、何か難しいことがうまくできるまである動作を繰り返し、システムは望ましい結果につながった動作をよい方法だと評価する。ウィル・ナイト上級編集者によれば、強化学習はマービン・ミンスキーなど、AI分野の開拓者が仕上げられなかった古くからある概念であり、以前はうまくいかなかった。しかし2016年3月に「強化学習で訓練されたプログラムのAlphaGoが史上最強クラスの囲碁棋士を打ち負かした。(中略)優れた囲碁対局のプログラム構築は実質的に不可能であり、その功績は驚くべきものだ。(中略)対局が非常に複雑なだけではなく、熟練プレイヤーでも、ある動きがなぜよいのか、あるいは悪いのか、正確には理解できることがあるのだ」という。 ナイト上級編集者は現在、ウーバーや オープンAI、ディープマインドが研究中の強化学習が、自動運転車の実用化や、重たかったり柔らかかったりする、あらゆるモノを確実につかめるロボットの開発を加速させるという。
神経科学と電子工学が融合する「麻痺の回復(Reversing Paralysis)」に起きた学際的手法もMIT Technology Reviewの好物だ。アントニオ・レガラード上級編集者は、フランス人神経科学者のグレゴワール・クルティーヌが半麻痺のマカクザルの頭蓋骨の中に神経の信号を記録する装置を埋め込み、マカクザルの部分的に切断された脊髄の周りに電極を縫合した、という記事を書いた。「無線接続で2つの電子装置がつなげた結果、動こうとするサルの意図を読み取ったシステムが、直ちにサルの脊柱に電気的刺激を送る」と突然、サルの足は伸長、屈曲できるようになり、「足を引きずって前に歩いた」という。 以前にも脳インプラントによりロボットアームを制御した研究者がいたが、無線で脳の信号を読み取り、電気刺激装置に接続することで、クルティーヌのような研究者は身体に障害のある人が再び歩けるようになる「 神経バイパス」を開発しているのだ。
ふたつの話は、2017年のリストに選んだテクノロジーの一部にすぎない。10のテクノロジーを全て読み、どのテクノロジーが最も優れていると思うか、jason.pontin@technologyreview.comまで知らせて欲しい。
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クレジット | Photo by Guido Vitti |
- ジェイソン ポンティン [Jason Pontin]米国版 編集長兼発行人
- MIT Technology Reviewの編集長兼発行人です。編集部門だけではなく、プラットフォームの開発、紙とデジタルの会社の全般的な事業戦略、イベントまで担当しています。2004年にMIT Technology Reviewに参画する以前は、休刊してしまったバイオテクノロジー誌の創刊編集長でした。1996年から2002年までは、レッド・ヘリング誌(ウォールストリートジャーナルには「ドットコムブームの聖典」と呼ばれました)の編集者でした。育ったのは北カリフォルニアで、母はサンフランシスコのレストラン向けに狩猟鳥を育てていました。ただし、教育を受けたのはイギリスで、ハロウスクールとオックスフォード大学で学びました。その結果、私の英語のアクセントはあり得ないくらいに変わってしまいます。