多くの自動車メーカーは、半自律運転による安全性向上を大きなセールスポイントとして訴求している。しかし、スマホの併用と合わせて総合的に考えると、近い将来ではむしろ事故が増え、保険料の引き上げもあり得ることをドライバーは認識すべきかもしれない。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、自動車保険会社数社は、保険料の支払金が保険料よりも早く増えていることに気付いたという。ステートファーム自動車相互保険会社のアナリストによると、支払金の増加の主要因はスマホだ。18歳から29歳のドライバーの半数以上が運転中のメッセージ送受信やインターネット利用を認めている。現在、携帯電話使用による交通事故が多発しており、その種の事故が保険料を押し上げているのだ。
この問題は、誰かが高速道路でフェイスブックをチェックするたびに起きる軽微な衝突事故よりずっと深刻だ。昨年、米国国家道路交通安全局(NHTSA)が公開した統計データによると、携帯電話でのメッセージ送受信やアイスコーヒーのすすり飲み等、ながら運転が原因の交通事故による死者は、前年比で8.8%増え、3197件から3477件になった。
ミシガン大学交通研究所のブランドン・ショートル・プロジェクト・マネージャーがMITテクノロジーレビューで警告していたとおり、現時点では、半自律運転はながら運転の問題をより悪化させかねない。
テスラの「オートパイロット」など、現時点で利用できる自動運転システムは限定的だ。自動運転システムが周辺環境を認識できず、自動車を適切に制御できない場合、運転はドライバーに委ねられる。しかし、ハンドルを握るはずのドライバーが道路に集中せずに他のことをしていれば、運転が機械から人間に移る際に危険な状況が発生したり、昨年のテスラの死亡事故のように、人間に制御が移らなかったりすることも起こりえる。
アルファベット(グーグル)の自動運転子会社ウェイモ(Waymo)等、自動運転プロジェクトに関わる研究者は、機械から人間への運転の移行に伴う危険は対処しにくく、ドライバーが一切自動車を制御しなくて済む完全自律型のほうが、将来的には自動運転の最も安全な形だと論じることが多い。
先週のブルームバーグの記事によれば、フォード自動車も、自社のエンジニアが自律自動車の運転中に眠ってしまうことがあり、同じ結論に達したようだ。道路の状況は瞬時に変わってしまうため、寝てしまったドライバーが目覚めるのに十分余裕のある形で、運転を安全に人間に引き渡すという考えそのものが、半自律運転システムを本質的に危険にしている、とフォードは考えるようになったのだ。
それでも半自律運転システムには人気が出ている。MITテクノロジーレビューのトム・サイモナイト記者の記事によれば、幹線道路で実際に自分の自動車に自動運転させるために、市販の電子機器と無料のソフトウェアを組み合わせた「手作り(DIY)自動運転システム」が普及している。しかし、手作り(DIY)自動システムにしても、量産車に標準装備される自律システムにしてもながら運転や居眠りを増やしてしまう効果があり、、ショートル・プロジェクト・マネージャーが警告したように、事故を増やしかねない。保険料の値上がりにもつながるだろう。
長期的な観点では、完全自律型の自動車は、道路をより安全にしそうだし、自動車保険料も下がるだろう。だが、そこに至るまでの過程は、平坦な道ではなさそうなのだ。
(関連記事:Wall Street Journal, Bloomberg, “半自律自動車は 不注意死亡事故を増やす,” “交通事故削減の責任は 自動車メーカーにあるのか?,” “700ドルでホンダ・シビックを自動運転車に改造する方法”)