イヤホンにできることは、音楽の再生や通話、Siriやグーグル・ナウ等のパーソナル・アシスタントの呼び出し、といったところだが、もっとスマートにする余地がある。
ここ数年のウエアラブル機器市場では、手首用のガジェットばかりが注目され、耳用はあまりなかった。ちょっと考えてみれば、耳はハイテクなアクセサリーに最適の場所とわかる。現在、多くのユーザーがイヤホンやヘッドホンを身につけてスマホを操作しているし、耳は口に近いので音声指示に適しており、手で触りやすい位置にあり、タッチ操作もしやすい。
スタートアップ企業のドップラー・ラボは、そんな耳の可能性に気付いた企業のひとつだ。21日に新発売されたドップラー・ラボ初の一般向け製品である無線イヤホン「ヒア・ワン(Here One)」(1組300ドル)は、あらゆる音をフィルター機能で遮断したり、逆に強調したい音だけに絞り込んだりして、自分の周りの音を制御できる。
ただし、ヒア・ワンは一般消費者向けには高価すぎるし、まだ多くの改善点(たとえば、使い方によっては、電池は2、3時間しかもたない)がある。それでも、ヒア・ワンが搭載する機能は、ウエアラブル・テクノロジーの未来を示すようで興味深い。
ヒア・ワンの見た目は、昨年レビューしたドップラーの初製品とほぼ同じだが、機能は大幅に増えている。レストランで着席したとき、耳障りな周囲の音を減らせるのは以前と同じだ。グラフィック・イコライザーまたはヒア・ワンのアプリに設定済みのフィルターで、邪魔な音を手動で調整できる。今回は、左右のイヤホンに3つずつ内蔵のマイクにより、自分の後方や前方だけの声を大きく(小さく)できるようになった。また、電話で通話したり、音楽を聴いたり、iPhoneでSiriを呼び出したり、一部のアンドロイド・スマホ(現在サムスンのGalaxy S6とS7のみに対応)でグーグル・ナウも呼び出せる。ヒア・ワンの多くの動作は、左右どちらかのイヤホンを1回か2回タップすることで操作する。
最初にスマホ用アプリを起動すると、片方の耳でホワイトノイズを聞きながら、もう片方の耳で信号音が聞こえるかどうかの検査があり、パーソナライズされたリスニング特性を調整できる。あえてノイズを発生させるフィルターもある。たとえば「ノイズマスク」フィルターは、自分の周囲にホワイトノイズを発生させた状態を作り、周りの音を全般的に遮る。
理屈の上では、ヒア・ワンのタッチ操作はいいアイデアだったが、製品の信頼性は不十分だ。音楽の一時停止や再生、Siriへの命令や、再生中の音楽の音量を元に戻そうとして、耳を何度もタップすることがあった。この操作はややイラつくだけでなく、私の目の前に立っている人には、頭の片方を繰り返し叩くのがおかしな様子に見えたはずで、ちょっと恥ずかしかった。
ヒア・ワンで電話をかけるときの音声品質は改善すべきだ。通話相手の声はプラグ式の単純なイヤホンより聞こえにくく、相手にも私の声が聞き取りにくかった。
今のところ、ヒア・ワンは一般受けする製品というより、まだ特殊なニーズ向けの製品に留まっており、新しい物好きのオーディオマニアや本当に静かな通勤時間が欲しい人、また、補聴器を使うほどではないが、やや聞こえにくい場合があるため、医療補助機器まではお金を出したくない人にもよさそうだ。ヒア・ワンはスマート・イヤホンであり、ソフトウェアの更新で機能が向上していく。ユーザーの現在地や時刻等の要因を考慮してフィルターを提案する機能を、ドップラー・ラボは数カ月以内にリリースする計画だ。遠くない将来、ヒア・ワンの機能は多くのユーザーの必需品になっているだろう。