ジェニー・スウォボダに会った時、彼女はビーニー帽をデザインしている最中だった。そのビーニー帽の上にはとろけたカップケーキが載っていて、全体に粒状の飾りが散りばめてあって、耳の部分にはドーナツが付いていた。
「きっと現実の世界では絶対にかぶらないようなものです」。スウォボダは笑いながら口にした。しかし、スウォボダは現実の世界で使うためにデザインしているわけではない。メタバースで使うものをデザインしているのだ。スウォボダは、奇妙ながらも急成長中の、新しいニッチなサービスの仕事をしている。バーチャル空間にいる人々のために衣装を作り出したり、選び出したりするファッション・スタイリストだ。
https://twitter.com/Lovespunn/status/1599825599463161856
デジタル生地(デジタル・ファブリック)に触れることはできない。ディセントラランド(Decentraland)やロブロックス(Roblox)といったバーチャル・プラットフォームを利用していなければ、衣装を見ることもできない。それでも、メタバースのヘビー・ユーザーたちが自身のアバターを着飾る上で支援してくれる人を求めるようになり、メタバース・スタイリストの需要はどんどん高まっている。多くの場合、求められるのは個人の期待や、社会的規範に反し、時には物理的性質にまで抗う、実験的で、とびきりクリエイティブなスタイルだ。
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多くのデジタル・スタイリストは、現実世界での仕事とメタバース上の顧客とを両立させている。例えば、ミカエラ・ライツ・アスカランは現実世界で大きめサイズの服のスタイリングをビジネスとして手掛けているが、3Dのバーチャル世界であるディセントラランドに出入りするようになってから、メタバース向けのファッション・スタイリストとして売り出すことを決めた。ディセントラランドにおいて、不特定多数の人々からコーディネートを称賛されたからだ。
同じくスタイリストとして活躍する、英国のリアリティ番組のファション専門家ジェマ・シェパードは、3年前のクリスマスに、自身が名付け親となった女の子から、ロブロックスのアバター用に60ドルのキラキラの靴を買って欲しいと言われた。これがきっかけとなって、バーチャル空間の人々のスタイリングに乗り出した。
しかし、メタバース・スタイリストが全員、現実世界での仕事を持っているわけではない。スウォボダはロブロックスでデジタル衣類やアクセサリーをデザインすることに日々を費やしていて、独自のファッションセンスによってカリスマ的な人気を得ている。人々はお金を払ってスウォボダの教えを請うために列をなしている。
メタバースのファッション・スタイリストは、今のところ、それ一本で生計を立てられる仕事ではない。ライツ・アスカランは、メタバース上でのスタイリングで得られる収入は、良い時で月の収入全体の20%ほどだと話す。ライツ・アスカランもシェパードも、現実世界で複数の仕事をやりくりしている。
それでも、新たなメディアで働き、新たなスキルを磨く、他にはない機会を得られるので、やる価値があるという。ライツ・アスカランは数年前にメタバース上でのスタイリングの仕事を始め、ゲーマーに人気のチャット・プラットフォームであるディスコードで顧客と接するようになった。カタログを作り、顧客がディセントラランドやドレス・エックス(DressX)、オーロボロス(Auroboros …