「ハードコア」大量離職で、元従業員らがツイッターに余命宣告
イーロン・マスクによる「ハードコア」な労働文化を求める最後通告は、大量の離職者と社内の士気低下を招いている。複数の内部関係者は、何らかの重大な障害が近く発生する可能性を懸念している。 by Chris Stokel-Walker2022.11.23
一夜のうちの大量辞職と、わずかな残留者の士気低下により、ツイッターはあと数週間しかもたないのではないか——。ツイッターを最近離職したある元従業員は、MITテクノロジーレビューにこう証言した。
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が従業員に送った「極めてハードコアに働く必要があります」というメールが波紋を呼んでいる。メールにはグーグル・フォームへのリンクが記され、「イエス」をクリックした者のみが残留できるという内容だ。これによって、11月4日のレイオフ(一時解雇)でも残った従業員の75%が退職を考えているとの推計もある。だとすれば、数日中に主な従業員が大幅に不足することになる。提示した条件で残留を希望する従業員が非常に少ないことが明らかになった後、ツイッターはオフィスの一時閉鎖と入館停止を従業員に通達した。17日夜のツイートでマスクCEOは、「優秀な人材が残っているので、あまり心配していません」と述べている。
こうした状況は、レイオフや不服従による解雇によって狂乱から一早く逃れた人たちにとって、厄介な展開となっている。「労働者が反乱を起こす前に、ここまで追い込むしかないということが分かります」。上級データ科学者として同社で働いていたメリッサ・イングルは言う。彼女は先週末にマスクCEOからレイオフされた1人だ。「彼らには選択肢があります。キャリアの成功者なのですから。このような扱いに耐えるつもりはないのです」。
マスクCEOによる「ハードコア」という最後通告をきっかけとした今回の大規模な反乱は、抜本的な方針の転換がない限り、ツイッターが終焉へと向かう兆しなのではないかとイングルは案じている。「もはやサイトを運営し続けるだけの技術的な専門知識を持つ人材が十分ではありません。マスクCEOは自社の従業員を恐れているのです。大きな変化がない限り、長くは持たないかもしれません」。
そう評価するのは、イングルだけではない。崩壊は「数分後かもしれないし、数週間後かもしれません」と語るのは、匿名を条件に取材に応じた元ツイッターのエンジニアだ(以降、「匿名エンジニア」と呼ぶ)。彼は最初のレイオフは免れたが、マスクCEOへの率直な批判に対する弾圧の一環として解雇された。
「予期せぬ問題が、壊滅的な破壊を引き起こすのです。インフラには十分なレジリエンス(回復力)がありますが、このレベルの大きな問題は予想できるものではありません」。
匿名エンジニアは「もうたくさんだ」と言っている人の数がこれほど多いことにも驚いていない。「マスクCEOのこれまでの(従業員の)扱い方を見れば、当然の選択です」。残留する人々は、H1-B(専門職就労)ビザで入国していたり、民間保険の加入継続が目的だったりと、(ツイッターで)働き続けざるを得ない事情があるのだろうと考えている。しかし、その数はわずかで、優秀な人材は流出している。基本的な機能を維持するだけでも「もっと多くのエンジニアを雇う必要があるでしょう」とイングルも考えている。
MITテクノロジーレビューは先日、ツイッターのある内部関係者が、ツイッターのシステムは今後徐々に劣化していくと考えていると報じた。Webメディア「プラットフォーマー(Platformer)」のゾーイ・シファー編集長は、ツイッターの重要なインフラを維持していた多くの従業員たちが、過去24時間で辞職したことを夜通し報告した。ツイッターのオフィスが閉鎖されている状況は、オフィスの再開が予定されている11月21日までに発生したインフラの問題において、その優先順位を付けたり、修復したりする従業員がより困難に陥ることを意味する。
マスクCEOはコメントの要請に応じなかった。ツイッターのコミュニケーション・チームは、最近のレイオフで大幅に縮小され機能していない。
「大きな方針転換が必要でしょう」とイングルは言う。すでに、マスクCEOは自らが発した厳格な措置を撤回する動きを見せている。11月9日の全従業員向けメールで、「リモートワークは、特別な例外を除いて許可されません」と通達していたが、今では、少なくとも毎月1回は同僚と直接会ってミーティングをする必要がある、に変わっている。
「マスクCEOは、ツイッターのシステムを熟知した、可及的速やかな対処ができる人々を呼び戻す必要があるでしょう。さもなければ、大規模なシステム障害が始まります」とイングルは言う。そしてこうした状況が、辞めたばかりの、または辞めるつもりの人々を板挟みにしている。ツイッターの現従業員や元従業員の多くは、葛藤を感じていると本誌の取材に語っている。現在の会社の運営方法には深い不満がある一方で、ツイッターが社会で非常に大きな役割を担っており、人々の生活の生きた歴史的記録であることも認識しているからだ。
そうした葛藤は、残留した同僚たちとのグループ・チャットでも見られるとイングルは話す。「細い糸で繋がっている状態です。忠誠心はありますが、士気は私がこれまでに目にしたことがないほど落ちています。彼らは敬意を持って(マスクCEOから)接してもらっているとは感じていません。自分の仕事が尊重されていると感じられないのです。そのような環境で、モチベーションを維持するのは非常に難しいのです」。
自らを「楽観主義者」だというイングルだが、「マスクCEOは状況を立て直せるかもしれませんが、その確率は非常にわずかです」と話す。とはいえ、もう少し楽観的な見方をしても、イングルも匿名エンジニアも、多くの従業員を切り捨てたツイッターがこの先長く続くと確信が持てないのだ。「すべての兆候が、システムになんらかの壊滅的な障害が生じることを示しています」とイングルは話す。「それはもう目の前です」。
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- 米国在住のフリーランスのテクノロジー&カルチャー・ジャーナリスト。著書に『ティックトック・ブーム(TikTok Boom: China's Dynamite App and the Superpower Race for Social Media)』がある。