ハーバード大学の研究者が、アカエイ型ロボットを作り上げた。部品に使われたのは、ネズミの心筋細胞、金の骨格、プラスチック製のひれ、藻類由来の光活性化タンパク質だ。奇妙に思えるが、実は当然の組み合わせだ。
7日発行のサイエンス誌に取り上げたプロジェクトを率いたパク・スンジン研究員によると、ネズミの心筋細胞がアカエイの体を形成するのに時間がかかるため、16mmの小型ロボットの製造に約1週間かかった。パク研究員が所属するハーバード大学ケビン・キット・パーカー研究所は、4年前にバイオハイブリッド型のクラゲロボットを製作したことで有名だ。「クラゲのロボットは、技術的理由で操作できない」(パク研究員)ため、クラゲより動きの速いアカエイをロボット化することにしたのだ。
エイは次世代型水中移動機械の「理想的な青写真」だというのは、ペンシルベニア州ベスレヘムのリーハイ大学の機械工学者キース・モアド助教授。マンタ(オニイトマキエイ)の泳ぎ方は効率がよく、水中をグライダーのように進む動きを模倣すれば、エネルギー効率の高い潜水艇が作れるという。パク研究員のロボットは種が異なるが、同じ原理が当てはまる。
アカエイ型ロボットは、チタン製の型に4つの層を重ねて作られた。まず伸縮性の高い高分子化合物の層がレーザーでエイの形に切り取られる。次に金製の骨格が取り付けられ、プラスチックの層で覆い、最後にネズミの心筋細胞を植えつける。
心筋細胞が活性化すると、筋肉を収縮させる信号が、細胞から細胞へと伝わる。パク研究員はネズミから採取した心筋細胞を、エイ型ロボットのひれに沿ってジグザグに配置し、筋細胞の収縮が体の前から後への伝わることで、ロボットのひれはうねるように動くようにした。
ただしアカエイ型ロボットは筋肉が下方にしか収縮できないので、ホンモノのようには動作しない。実物のアカエイには、筋肉の層がもうひとつあるので、ロボットよりもひれを大きく上に動せきる。一方、アカエイ型ロボットは、金製骨格の弾性エネルギーを使って、ひれを元の位置に戻す。
「本物のアカエイとロボットは同じようには動きません。しかし筋肉を2層にすれば同様にできるでしょう」(パク研究員)
筋肉は、光遺伝学の原理を用いて光で制御する。 筋細胞のたんぱく質には藻類由来の遺伝子が導入されており、ブルーライトを当てることで筋肉を収縮させ、制御できるのだ。
この種のバイオボットは以前にも製作された。だが、パク研究員のアカエイ型ロボットは操縦できることに新規性がある。LEDライトで簡単な障害物コースを泳いで抜け出せたのだ。アカエイ型ロボットは、他のバイオハイブリッド型ロボットに比べて、速度、移動距離、耐久性で上回っている。とはいえ、アカエイ型ロボットが、オリンピック選手並に速く泳ぎげるわけではない。250mmの障害物コースを泳いだときの速度は毎秒1.5mmに過ぎない。
アカエイ型の小型ロボットは何に役立つのだろうか。パク研究員は「単純に、生体モデルや、回路を組み立てること、信号経路の設計に興味があったのです」と答えたが、工学的に加工された心筋細胞がどのように収縮するかをモデル化できれば、人工臓器の開発に応用できるかもしれない。モアド助教授は、本物の筋肉は、他のテクノロジーに比べて「ノイズの特徴を捉えるのが難しいほどの静音性」が実現できるという。
「ノイズが少ないことは、ステルス型の偵察用潜水艇から、観察対象の生物に気付かれず、怖がらせることなく追跡する機器の製造・開発まで、さまざまな分野に応用できる可能性があります」