KADOKAWA Technology Review
×
主張:EV移行を機に自動車業界は「大型化」をやめるべきだ
Dominick Sokotoff/Sipa USA via AP Images
気候変動/エネルギー Insider Online限定
Cars are still cars—even when they’re electric

主張:EV移行を機に自動車業界は「大型化」をやめるべきだ

気候変動の解決策として、内燃機関を使用する従来の自動車から、電気自動車への転換が必要とされている。だが、それだけですべての問題が解決するわけではない。大型化をやめ、もっと小さくて安全な車両を推進すべきだ。 by Paris Marx2022.11.01

電気自動車(EV)は気候変動に対する解決策として持ち上げられるようになった。しかし、それは本当に解決策なのだろうか?

米国のジョー・バイデン大統領は2021年秋、デトロイト・モーターショーを訪問した。米民主党が推進するインフラ法案と、気候変動対策の鍵として喧伝されているEVをアピールするためだ。だが、大統領の行動は、大型車依存というより深刻な問題への対処なしに電動化を押し進めることは不可能だということを、まさに表すこととなった。

ゼネラル・モーターズ(GM)のブースに立ち寄ったバイデン大統領は、同社の電動サブコンパクトカーであるボルトではなく、ハマーEVに飛び乗った。ハマーEVは過去数十年の自動車デザインの軌跡における過ちのすべてを体現しているような車だ。ひとしきり試乗したあと、大統領はこう発言した。「あのハマーはすごいね」。数日後、GMはバイデン大統領による宣伝効果で、この巨大な車の予約が増加していると発表した。今後、街中でより頻繁にハマーEVを見かけることになりそうだ。

これは我々が求めている未来ではない。輸送セクターの温室効果ガスの排出量は、米国全体の27%を占める。ここ数年で燃費の向上やEV所有者の増加があったにもかかわらず、これは他のどの部門よりも多い。SUV(スポーツ用多目的車)の台頭により、その恩恵は事実上帳消しになってしまっているのだ。国際エネルギー機関(IEA)は2010年から2018年にかけて、SUVの需要が世界的に増加し、温室効果ガス排出の増加原因の第2位になったことを突き止めた。そういったSUVをすべて電動化する必要がある、と言うのは簡単だが、それで解決できるような単純な問題ではなさそうだ。

EVはマフラーからのガス排出がないため、しばしば「ゼロ・エミッション」車と表現される。だが、それでEVがクリーンであることにはならない。EVの巨大なバッテリーは、世界中の鉱山から大量の資源を採掘しないと作れない。それは水源の汚染、がんや肺病の増加、児童労働の誘発など、結果的に環境や人間へ多大な影響を及ぼす。仮に、自家用車の電動化に大きく依存しているこの移行を受け入れた場合、主要な鉱物の需要が2040年までに急増し、リチウムだけでも2020年比で42倍になるとIEAは予測している。どんどん巨大化していく電動トラックやSUVのバッテリーは、米国の政策担当者や業界関係者が注目していない小型車 …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る