ビル・ゲイツが創設した気候変動ベンチャーキャピタル・ファンド「ブレークスルー・エナジー(Breakthrough Energy)」が、その使命を拡大する。投資対象に気候変動への「適応」プロジェクトを加え、株式公開が視野に入ったレイター・ステージにあるクリーンテック・スタートアップのプラント建設やテクノロジーの規模拡大を支援する資金提供を始める。
この計画は、10月17〜19日にシアトルで開催された同ファンドの「ブレークスルー・エネルギー・サミット」の最後に発表された。
これまでブレークスルー・エナジーは、「5つの重要な課題」に焦点を当ててきた。つまり、電力・運輸・製造・建物・農業といったすべての分野で、気候変動の「緩和」策の一環と認められている気候汚染物質の削減を約束する企業を支援してきた。今回新しく投資の対象になった気候変動への「適応」とは、気候変動そのものを防ぐのではなく、そのリスクから人々を守る方法を開発することを指している。
世界で排出量が増え続け、地球が温暖化し続ける中、気候変動への適応が大きな役割を果たさなければならないことが明確になってきている。そうインタビューで語るのは、ブレークスルー・エナジーのベンチャー企業投資委員会で技術部門責任者を務めるエリック・トゥーンだ。
トゥーン責任者は「緩和策では間に合わないし、温暖化の苦しみは受け入れられません」と言う。これは、バラク・オバマ大統領時代のジョン・ホールドレン科学顧問が気候変動への対応には、緩和、適応、苦しみという3つの選択肢しかないと述べたことになぞらえている。
「だから今後も緩和策に重点を置きつつ、適応策も含むよう視野を広げていきます」とトゥーン責任者は話す。
ブレークスルー・エナジーは、ますます日常化・深刻化する干ばつに取り組む農家や地域社会を支援する方法など、いくつかの分野に焦点を当てている。例えば、先端的な海水淡水化テクノロジーや空気中から水分を抽出するシステムなどだ。他にも、世界の気温が上昇したり、湿度が高くなったり、乾燥が深刻化したりしても、屋内農業や植物の遺伝子組み換えによって、作物の生産性を維持できるようにする取り組みもある。
また、ブレークスルー・エナジーは海面上昇やますます深刻化する暴風雨の脅威にさらされている、世界の港湾インフラを強化する方法に対しても投資を検討するとトゥーン責任者は述べた。例えば、高潮に自動的に対応する動的係留システム、高温・過酷な環境でも安全に操作できるクレーン、より堅牢な船舶などだ。
数週間前、ゲイツ創設者はブルームバーグに、これらの新しい投資分野はブレークスルー・エナジーが資金調達中のファンドの下で活動を開始することになると語り、サミット期間中の18日に再度断言した。その規模やいつ確定するかはまだ発表していないが、現在までに、ブレークスルー・エナジーは約10億ドル規模の資金を2回調達している。
また、「セレクト(Select)」と名付けた別のレイター・ステージ・ファンドは、「大規模かつ追加」の資金を主に提供し、企業が実証プロジェクトを進められるように支援する。まだ商業化されていない、大規模なテクノロジーをテストし、最適化するために設立されたものだ。トゥーン責任者は、今回の資金のほとんどはブレークスルー・エナジーがすでに投資している企業に向けられるが、そうした企業だけに限定するわけではないと述べた。
ブレークスルー・エナジーが投資しているスタートアップに出資しているシンガポール政府所有の投資会社テマセク(Temasek)も、この新しいファンドへの出資を予定している。ブレークスルー・エナジーはこの新しいファンドの規模も、他の出資者もまだ公表していない。