眼病の早期発見に挑む
グーグルの人工知能子会社
グーグルの機械学習部門が、何百万枚もの網膜画像を読み取って視覚異常を早期発見し、医師の負担を軽減することに挑む。 by Jamie Condliffe2016.07.06
ロンドンのムアフィールズ眼科病院は毎週3000回もの光干渉断層撮影で視力障害を診断している。
断層撮影(散乱光で網膜の高解像度3次元画像を作る)が生成する大量のデータを分析するのは時間がかかる仕事だ。各患者の症例に固有の問題を特定するため、画像の理解には熟練し経験豊富な人間の目が必要なのだ。そのため、国全体の広範な傾向をつかんで、視力障害を早期に発見するような時間はこれまでほとんど取れなかった。
この種の作業こそ、人工知能が取り組むべきであり、グーグルのAI系子会社ディープマインドがムアフィールズ眼科病院との提携を決めたのは当然の成り行きである。ディープマインドは、同社の医療系プロジェクトの一部として、機械学習で画像を読み取ることにしたのだ。この提携で、ディープマインドのソフトウェアは100万枚以上の網膜画像(光干渉断層撮影と従来の方法で撮影した網膜画像の両方)を学習し、眼病の初期段階で眼に何が起きているのかを理解することから始める。
研究はまず、糖尿病や加齢黄斑変性で引き起こされた視力異常を、自動的に診断する方法の特定に重点を置く。糖尿病患者は健常者に比べて視力を失う可能性が25倍も高く、加齢黄斑変性は英国で最も一般的な失明の原因だからだ。どちらの疾患でも、早期発見で治療はより効果的になる。
新規のプロジェクトであり、人間の目では識別できないデータのパターンを見つけるために機械学習を使うため、この手法がうまくいくか詳しくはわからない。だがディープマインドは、視覚異常の初期兆候を突き止め、医師が介入できる時間を伸ばすつもりである、と主張している。
ディープマインドが純粋に研究指向の医療系プロジェクトに携わるのは今回が初めてだ。以前、ロイヤル・フリー病院(ロンドン市北部)との共同研究では、腎臓病患者を観察するスマホアプリ「ストリームズ」の開発に合意したものの、ニュー・サイエンティスト誌が160万人分の患者記録がディープマインドに制限なく提供されたことを疑問視する記事を掲載し、懸念が広がった(その後、病院は懸念に答えている)。
一方、ムアフィールズ眼科病院が提供する網膜のスキャンデータは匿名化されている。ディープマインドはデータから患者を特定するのは不可能だとしており、研究結果は「将来の医療の改善に利用されるかもしれないが、現在患者たちが受ける治療法にすぐに影響が出るわけではない」という。ロイヤル・フリー病院の一件で、ディープマインドも今回は慎重に行動する気になったようだ。
深層学習が医療に適用されるのは今回が初めてではない。たとえば、IBMのスーパーコンピューター「ワトソン」は現在、60万件の診断書、150万人分の患者記録、臨床試験データを活用し、医師ががん患者に治療計画を立てるときの手助けをしている。一方、英国を拠点とする新興企業バビロンはユーザーから症状を聞き出し、どうすればいいか提案するソフトウェアを開発している。
人工知能に広い範囲の問題解決を任せて、確実な答が得られるまでには長い時間がかかる。だが、視覚異常の早期発見のように、明確な任務を与えられれば、ディープマインドは1週間に3000枚の画像を検査し、症状が顕在化する前に医師が眼疾患の前兆を見つけられる人工知能を開発できるはずだ。計画が成功するのを見守ろう。
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クレジット | Image courtesy of Moorfields Eye Hospital NHS Foundation Trust |
- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。