マンハッタン島水没の危機
金融街を守る2つの巨大計画
海面上昇で市の存続が危ぶまれるが、大胆な対策で次の大規模災害は免れうる by Jamie Condliffe2016.07.06
海抜が低いニューヨーク市は、気候変動による海面上昇もあって、洪水の危機に直面している。しかも、市内には、世界一高価な不動産がいくつもある。ニューヨーク市だけのことを考えるなら、地球温暖化による水害から住民を守る措置を講じて、住民を移転させずに、グローバルビジネスの中心地の地位を守るほうが賢明だ。
巨大暴風雨サンディ がニューヨーク市に上陸した2012年には、通常の満潮時を最高で約3m上回る高潮が押し寄せた。しかも最近のネイチャー誌の調査では、南極の氷の融解で2100年までに海面は約90cm上昇する可能性がある。今後、異常気象による大きな被害が発生するかもしれない。
実現可能な解決策はいくつもある。特に斬新なブルー・デューンズの構想では、ニューヨークの北西部に位置するニュージャージーから東部のロングアイランドまで約64kmの人工砂丘を構築し、巨大波の膨大なエネルギーを消散させサンディ級の大型ハリケーンの影響を減らす。一方、市街の完全な再設計や、地下輸送や公共インフラの徹底的な点検は、一見まともだが複雑すぎて実現には無理がある。
デンマークの建設会社ビャルケ・インゲルス・グループ(Bjarke Ingels Group:BIG)の提案は、もっとも説得力がある。ヨーロッパでは海抜ゼロメートル地帯で多くの人が生活しており、そこでの生活様式も水害を食い止める方法も知っていて当然だ。BIGの提案では、マンハッタン南端の金融街(ダウンタウン)の周りに巨大な堤防を建設し、マンハッタン島の半分ほどをU字型に囲ってしまう。ただし、ニューヨーク市は建設に必要な資金30億ドルを工面しないといけない。
ニックネーム「ビッグU(Big U)」の堤防(率直にいえば単に巨大な壁) は、理論上は洪水から都市を防護する以上の機能を地域に提供することになる。壁面が作る風景や自転車専用道路、その他の近代的都市計画のトリックにより、本来醜いはずの壁は観光名所にすらなるだろう。予算の制約がある以上、巨大計画は計画どおりに完成しないかもしれないが、本当にマンハッタンに必要なのはそもそも壁だから、それで十分といってもいい。
もっと深刻な批判もある。ビッグUで守られるのはウォール街でありサンディの被害が特に深刻だったブルックリンやクイーンズなど、他の地域は守られない。また、ビッグUは100年に1度発生する約80cmの洪水に備えて設計されるに過ぎず、長期的に見ればビッグUでは完全に街を守れない。
ニューヨークは、海面上昇や異常気象事象から街をどう守るか、難しい決断に直面している。2つの解決策はどちらも効果的だが欠点もある。 しかし、街を延命させるには、どちらかを一方を選ぶ段階に来ている。
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- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。