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中国テック事情:「やりすぎ」コロナ対策アプリで市民に混乱 ほか
Kevin Frayer/Getty Images
How the covid pop-up window is wreaking havoc on daily life in China

中国テック事情:「やりすぎ」コロナ対策アプリで市民に混乱 ほか

「ゼロコロナ」政策を続ける中国で、北京市民らを対象とした新型コロナ対策アプリの過剰な機能が市民を困らせている。ほか、中国の最新のテクノロジー関連ニュースをまとめて紹介する。 by Zeyi Yang2022.10.10

中国の国慶節休暇を楽しんだみなさんが、高速道路の渋滞には巻き込まれなかったことを祈っている。

量子時代のコンピューティング
この記事はマガジン「量子時代のコンピューティング」に収録されています。 マガジンの紹介

とはいえ、家にいるよりはまだマシなのかもしれない。今の中国で旅行は、やはり贅沢と感じられる。世界各国が新型コロナウイルス関連の渡航制限を撤廃する一方で、中国では短期間の旅行でさえ、航空便の運航休止、強制隔離、定期的な新型コロナウイルス検査結果の要求などに悩まされているからだ。

首都・北京に住む、あるいは北京を訪れる2000万人以上の人々には、もう1つ別の心配事がある。すべての予定を妨害する可能性のある、スマートフォンに突然表示されるポップアップ・ウィンドウ(以降、ポップアップ)だ。

中国は2020年から接触者追跡プログラムを展開し、すべての国民にQRコードを割り当てている。国民はそれを使って自分の新型コロナウイルスに関する状況を報告することで、公共の場を訪れたり、公共交通機関を利用したりするのが許可される。このシステムは、中国の厳格なゼロコロナ政策の一環として運用が続けられている。機能の一部は、国内の死者数を比較的少なく抑えたことでかつては称賛されたが、現在では国民にとって有益というよりも重荷に感じられるようになっている(他の国のほとんどの接触者追跡アプリは運用を停止している)。

このポップアップ(「弹窗(タンチャン)」と呼ばれる)は、北京政府が追跡システム上に追加した機能の1つである。新型コロナウイルス対策モバイル・アプリのポップアップは、ユーザーが直ちにPCR検査を受けない限り消えることはない。「フレンドリー・リマインダー」というタイトルが付けられ、何をするべきか大まかに指示してくれているが、それほどフレンドリーではない。ポップアップによってユーザーのQRコードが隠され、スキャンできなくなるため、さまざまな場所への立ち入りが制限されてしまうのだ。すぐにPCR検査を受けて1日でポップアップを消せることもあれば、7日以上自宅での隔離を求められることもある。

私には中国各地に友人がいるが、彼らの多くがこのアプリについて不満をこぼしている。「ポップアップを消すためにPCR検査に行ったら、検査場所が高リスク区域であることが判明したため、14日間の自宅隔離が求められました」とある友人は4月に書いている。具体的な内容は人によって違っても、ポップアップが表示される理由やタイミングが分からず、それに備えるための手段がないのが厄介だという点については全員の意見が一致している。

北京政府の公式発表によれば、ポップアップが表示される理由はいくつかある。新型コロナウイルス感染者が最近発生した都市に行った、直前まで海外にいた、新型コロナウイルスに暴露した誰かと同じ「時間と空間」にいた、解熱薬や咳止めを購入してから72時間以内にPCR検査を受けなかった、などだ。

しかし、問題なのは、ハイテクなパンデミック・ソリューションと謳っているにもかかわらず、このアプリがリスクを識別する方法は必要以上に広範囲に及ぶ傾向があることだ。しかもポップアップが表示される理由についてはまったく説明がない。そのため国民はしばしば混乱し、新型コロナウイルス感染に関して中途半端な状態に置かれてしまう。

まさにそのような事態が、北京に住むフローラ・ユアン(28歳)の身にも起こった。彼女は今年初め、オフィスがあるビルの外を歩いている時に初めてこのポップアップが表示され、直ちにビルへ入れなくなった。「ポップアップが表示された後でも、街を歩くことはできるかもしれませんが、公園やレストラン、お店など、どこかを訪れるのに必要なQRコードがポップアップで隠されて使えないのです」。

その後、レストランに入ろうとした時や、すべての病院が閉まっていてPCR検査を受けられない旧正月、列車に乗って北京を出発しようとしている数時間前にも、ポップアップが表示されたという。

それらのどのケースでも、彼女が実際にリスクの高い行動をとっていたわけではなく、あるいは新型コロナウイルスに暴露されたことが分かっていたわけでもない。追跡システムは、ユアンが北京以外の別の場所から来たとみなしたのかもしれないし(彼女の電話番号は別の場所で登録された番号だ)、あるいは位置情報から新型コロナウイルス感染者と同じ場所(おそらく地下鉄)に居合わせたと認識されたのかもしれない、とユアンは推測している。

だが、実際にウイルスに暴露したかどうかは、あまり問題ではない。ポップアップが表示される理由についてほとんど説明がない以上、何が理由か説明がつかないからだ。用心しすぎるぐらい用心すること(そして国民の生活に過剰なまでに干渉すること)は、ポップアップの仕様であって、バグではない。

中国政府はテクノロジーに精通していることを大げさに宣伝しているにもかかわらず、このポップアップはシステムに大きな欠点があることを明らかにしている。現実として新型コロナウイルス接触者追跡アプリは、中国外ではしばしばスマートで夢のよう監視テクノロジーの利用と見なされている。実際にはアプリには欠点があり、問題の解決以上に多くの負担をユーザーに与えている。

アプリの欠点は、非常に大きな影響を及ぼしている。人々はポップアップが消えるのを待っている間に、仕事や休暇の機会を失い、時には急を要する医療サービスを受けられない場合もあるからだ。ウェイボー(微博)では数千人もの人が、突然表示されるポップアップによって家から遠く離れた場所で立ち往生してしまったことについて、不満をもらしている。このポップアップによって、仕事や親族を訪れるために北京へ行く数百万人も、予測できない制限が課される市民と同様に悩まされている。

このテクノロジーは精密な予防措置というよりも、政府ができる限り厳しい措置ができるようにするための、切れ味の鈍い道具なのだ。それはまるで、中国があらゆる物の表面を執拗に消毒するのと同じようだ。ポップアップは、中国が新型コロナウイルス関連の死者数を減らすのに役立っているのだろうか。もちろん役立ってはいるだろう。しかし、その代償はいかほどだろうか。

中国の一般市民の間では、そのように感じている人がますます増えている。パンデミックの最初の2年間は、新型コロナウイルスの蔓延を抑えるために不可欠と考えられていた対策だが、今では見せかけに過ぎず、負担が大きいと感じられている。一般国民は、たとえ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の方針に従いたいと考えていたとしても、自分自身の生活のコントロールができないと強く感じている。ユアンができる唯一のことは、列車や飛行機に乗る前は、頻繁に、時には1時間に1回程度、アプリをチェックすることだけしかない。

「新型コロナウイルス対策が引き起こすあらゆる悲劇に比べれば、大したことではないように思われるかもしれません。しかし、それが個人に降りかかると、やはり相当深刻な事態に感じられます」とユアンは言う。

中国関連の最新ニュース

そのほかの中国関連の最新ニュースを簡単に紹介しよう(リンク先はいずれも英文記事)。

1. 新しい燃料によって中国の自動車がガソリンから脱却できるかもしれない。これ自体は良いことだが、逆に中国の石炭依存度を高める恐れもある。(MITテクノロジーレビュー

2. 中国製ワクチンに関する多くのニュース

  • インドネシアは、中国製mRNAワクチンを緊急承認した。このワクチンは、中国でもまだ承認されておらず、インドネシアは初めて承認した国となった。(ロイター通信/有料記事
  • モデルナは中国でのmRNAワクチンの販売を目指しているが、報道によれば、販売条件として中国企業への技術移転という中国政府の要求を拒否したという。(フィナンシャル・タイムズ/有料記事
  • 日本は外国人旅行者に対し、新型コロナウイルス・ワクチンを3回接種していれば検査を免除する措置を開始する予定だ。このワクチンには、非mRNAの中国製ワクチンも含まれる。(ストレーツ・タイムズ

3. 「静的管理」から「不要食品」といった、中国政府がゼロコロナ政策を実施するために展開する意味不明なフレーズが紹介されている。(ニューヨーク・タイムズ/有料記事

4. 中国の大手eコマース、JDの創業者で元最高経営責任者(CEO)のリチャード・リウが、2018年にミネソタ州で起こした性的暴行事件の訴訟で和解した。(ウォール・ストリート・ジャーナル有料記事

5. グーグル翻訳とお別れ。グーグルが中国で継続して運営していた、最後に残されたサービスが中国国内で使えなくなった。(CNBC

6. 新たな調査で、中国政府の支援を受けるハッカーが、亡命中のチベット人組織を標的にしてきた様子が明らかになった。(ブルームバーグ/有料記事

思惑通りに運ばない電子タバコ規制

世界の電子タバコ生産の90%以上を占める中国が、10月1日から電子タバコの販売に対し厳しい規制を実施していると、中国メディアが報じている。すべての電子タバコにチャイルド・ロックが必須となり、フルーツ風味の電子タバコの製造・販売が禁止された。フルーツ風味の電子タバコは、子どもが喫煙に興味を持ってしまうとして物議を醸している。また、卸売業者や小売業者は、国が運営する中央市場ですべての取り引きを実施しなければならず、事前に国から免許を取得する必要がある。新規制への対応が急がれる中で一部の小売業者は、フルーツ風味の電子タバコを買いだめし、倍の値段で販売している。

あともう1つ

ウィーチャット(WeChat)か? 白酒(中国発祥の蒸留酒)か? 中国経済の未来を代表するのはどちらなのだろうか。9月30日、中国の高級酒(1本200ドル以上)メーカー「貴州茅台酒(きしゅうちだいしゅ)」が、中国上場企業における時価総額1位の座をテンセントから奪った。テンセントの時価総額は2021年1月以降、64%も減っている。政府の大手テック企業に対する規制強化が主な理由だ。テック企業は栄枯盛衰、白酒は永遠なり。

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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