大手製薬会社のメルクが2億ドルのライセンス契約を発表した。契約相手は、RNAに基づいた治療法を開発するマサチューセッツ州ケンブリッジの新興企業モデルナ・セラピューティクスだ。メルクは自社が持つがん免疫療法分野の専門知識と、モデルナの患者別がんワクチンの専門知識を結び付け、2つの治療法を併用することで、より効果的にがんを治療しようとしている。
モデルナは患者別がんワクチンを2017年には臨床試験することを目指している。モデルナの新治療法の本質は、分子レベルで改変したメッセンジャーRNA(mRNA)にある。mRNAは、DNAの遺伝子コードをタンパク質に翻訳する働きがある。mRNA内のヌクレオチド(略号文字)を配置し直すことで、モデルナはさまざまな疾患の治療に役立つ抗体その他のタンパク質を作り出せる。
理論上、治療用mRNAは体内でどんなタンパク質でも作り出せる。では、なぜこの手法に以前は注目されなかったかのだろうか。実は、血液にそのまま注入されたmRNAを人体はウイルスとみなし、免疫反応により攻撃してしまうのだ。モデルナの治療法では、mRNAの2文字をウイルス免疫反応を引き起こさない自然類似物に書き換え、この問題を克服した。
mRNAに基づく同様の治療法を開発する会社は他にもいくつかある。シャイアーはmRNAを嚢胞性線維症の治療に使用する研究について2014年に発表したが、その後は開発に関する発表はない。ドイツのバイオ企業EthrisはmRNAを希少疾患の治療に使おうと研究開発中である。
RNA治療分野では、ほとんどの場合、異なるテクノロジーを扱う企業同士の競争だ。RNA干渉またはRNAiを用いたテクノロジーで、有害タンパク質の生成を止めたりがん細胞の増殖を抑えたりするために、自然に存在するmRNAの活動を阻害する。マサチューセッツ州ケンブリッジのアルナイラムはRNAiを使った2つの治療法の後期臨床試験中で、さらにいくつかの治療法が初期臨床試験段階にある。