「AIに埋め尽くされる」
画像生成AIブームの影で
苦悩するアーティスト
ステーブル・ディフュージョンやミッドジャーニーなどのAIシステムが生成した画像が、ネット上のいたるところで見られるようになった。しかし、こうしたAIは既存の画像を用いて訓練されているため、アーティストたちにとって死活問題だ。 by Melissa Heikkilä2022.09.28
インターネット上のさまざまなところで見かける、人工知能(AI)が生成したクールな画像。それらの画像の中には、かなりの確率でグレッグ・ルトコフスキの作品がベースとなった作品が含まれている。
ルトコフスキは、ポーランド出身のデジタル・アーティストだ。古典的な絵画様式を用いて、夢の中のようなファンタジーの世界を描き出す。これまでに、ソニーの「ホライゾン・フォビドゥン・ウェスト」、UBIソフトの「アノ」「ダンジョンズ&ドラゴンズ」、マジック:ザ・ギャザリングなどのゲーム向けにイラストを制作してきた。そして、指示文をもとにAIが画像を生成するという新たな技術の登場に伴い、突然大きな注目を浴びるようになった。
ルトコフスキの独特の様式は、2022年8月末に公開された新たなオープンソースのAIアート生成システム「ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)」において、最も頻繁に指定される様式の1つとなった。ステーブル・ディフュージョンは、その他の人気の画像生成AIモデルと同様に、テキストで指示するだけで圧巻の画像を作成できるツールだ。
例えば、「Wizard with sword and a glowing orb of magic fire fights a fierce dragon Greg Rutkowski(剣と球形に光る魔法の炎を持った魔法使いが凶悪なドラゴンと戦う グレッグ・ルトコフスキ)」と入力すると、ステーブル・ディフュージョンはルトコフスキの作品とさほどかけ離れていない画像を出力してくれる。
だが、こうした画像生成プログラムは、インターネット上から収集した画像で構築されており、アーティストの許可を得ていなかったり、適切な帰属表示がされていなかったりすることが多い。その結果、倫理と著作権に関して厄介な問題を引き起こしており、ルトコフスキのようなアーティストの我慢は限界に達しつつある。
ステーブル・ディフュージョンに入力された指示文と出力結果を1000万件以上追跡しているWebサイト「レクシカ(Lexica)」によると、ルトコフスキの名前は指示文の中で約9万3000回使用されてきたという。ミケランジェロ、パブロ・ピカソ、レオナルド・ダ・ビンチなどの世界で最も高名な芸術家たちの名前は、それぞれ使用回数が約2000回以下だった。ルトコフスキの名前は、指示文から画像を生成する別のAIシステムである「ミッドジャーニー(Midjourney)」のディスコード(Discord)でも、数千回使用されている。
ルトコフスキは当初この事態に驚いたが、新たなオーディエンスにアプローチできる良い機会になるのではないかと考えた。そこで、自身が制作した作品が紹介されていないか、自身の名前をネットで検索してみた。すると、検索結果には、自身の名前が含まれているものの、自身の作品ではない作品が並んでいた。
ルトコフスキは、「ステーブル・ディフュージョンの公開後わずか1カ月でこの状態です。1年後にはどうなっているのでしょうか。ネット上にはAIが生成したアートで飽和状態になり、おそらく私の作品は埋もれて見つけられなくなるでしょう」と言う。「そうなるのが心配なのです」。
ステーブル・ディフュージョンを構築したスタートアップ企業であるスタビリティ.AI(Stability.AI)は、モデルの訓練に「ライオン-5B(LAION-5B )」データセットを使用した。このデータセットは、ドイツの非営利団体であるライオン(LAION)が取りまとめたものだ。ステーブル・ディフュージョンのデータの一部をダウンロードして分析したテクノロジスト兼作家のアンディー・バイオによると、ライオンはデータの収集後に透かし入りの画像やロゴなどの芸術性の低い画像をフィルターで取り除くなどして、データを絞っていったという。バイオは、ステーブル・ディフュージョンのモデルを訓練するのに使用された6億枚の画像のうち1200万枚を分析した。その結果、ピンタレスト(Pinterest)のような第三者のWebサイトやファイン・アート・アメリカ(Fine Art America)などのアート販売サイトから収集されたものがかなりの部分を占めていることが判明した。
ルトコフスキの作品の多くは、 …
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