ここ数週間にパキスタンを襲った洪水により、1000人以上が死亡し、200万戸近くの家屋が破壊された。この洪水を引き起こした南アジアのモンスーンは、気候変動によって強まった可能性がきわめて高い。
その根拠となる新たな分析をしたのは、ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)という科学者のネットワークだ。WWAの研究チームは、気候モデルや気象観測などのツールを使って、地球温暖化が最近の異常気象事象の発生可能性や重大性を高めたかどうかを研究している。
しかし今回のパキスタンの洪水について、気候変動がどれほど大きな役割を果たしたかということは明らかでない。
熱波での温暖化の影響を評価する要因分析は比較的簡単だ。平均気温が高くなると、このような猛暑を引き起こす基準値を押し上げる。WWAの研究チームは、熱波が発生する確率が気候変動がどれぐらい変わったかを正確に計算している。昨年の猛烈な太平洋岸北西部の熱波のような状況は、「人為的な気候変動によって少なくとも150倍は起こりやすくなった」という。最近の英国の熱波は、発生する確率が気候変動によって「少なくとも10倍高まり」、今年初めにパキスタンとインドで起こった熱波の「発生する確率は30倍」になったとしている。
だが、研究チームが報道機関向けに出した声明によると、地球温暖化が雨季の拡大に果たした役割を気候モデルを使って特定するのは難しいという。WWAはこの不確実性の原因として、豪雨パターンの長期にわたる大幅な変動と、モデルが捉え切れていない自然の作用が働いたこと、および当該地域の気象の特異性が組み合わさっていることを挙げている。インダス川流域はこの地域のモンスーン地帯の西端に位置し、乾燥した西側と湿潤な東側の間には降雨の傾向に大きな違いがある。
一方で、この地域で降雨量の最も大きい時期がここ数十年でさらに激しさを増し、最も深刻な被害を受けた2つの州では約75%増加したことを、気象記録は明確に示している。いくつかのモデルから、その地域の2カ月にわたる雨季の期間中で最も降雨量の大きい5日間の降雨量が、気候変動の結果として最大50%増加した可能性が見い出された。
「気候変動の影響について正確な数値を出すのは難しいのですが、地球温暖化の影響によるものであることは明らかです」。インペリアル・カレッジ・ロンドンで気候科学を教え、WWAのリーダーの1人であるフリーデリケ・オットー上級講師は声明で述べている。
9月15日に発表した科学論文で研究チームは、気象学的ないくつかの力が組み合わさり、極端な降雨を起こしたと指摘している。海水上層の水温を下げることで世界の大部分に通常より多い降雨をもたらしたラニーニャ現象もその1つだ。同現象がパキスタン全土の近年まれな暑い春夏の天候と重なった。うだるような暑さによって何千もの氷河の融解も加速されインダス川に流れ込んだが、これが洪水にどれほど寄与したかは不明だ。
地球が温暖化すれば全世界の降雨パターンはもっと不規則になり、激しい雨の時期と激しい乾燥の時期は共に一般化するだろうと、気候科学者は長らく警鐘を鳴らしてきた。温まった大気はより多くの水分を含むため、土壌や植物から水分を吸い出し、気圧配置を変えてしまうということも要因の1つとなる。国連気候パネルの予測では、南アジアの雨季はこれから数十年で年ごとの変動が大きくなるが、全体としては21世紀を通じ降雨の激しさが増大するとしている。
WWAによると、気温が上昇すると、パキスタンで最も雨の多い時期の降雨はさらに極端なものになる可能性が高いという。つまり、河川堤防や家屋その他のインフラを強化して市民を守る必要性が高まっているということだ。気候悪化で発展途上国に不当に割を食わせている富裕国は、できる限りの支援をする必要がある。