ロブロックスのアバターがもっとそっくりに、ユーザーの表情を追従
オンラインゲーム・プラットフォームの「ロブロックス」で、ユーザーの表情の変化がリアルタイムでアバターに反映されるようになる。ただし、「信用と安全」を維持するため、当初は一部のユーザーのみが使えるようにする。 by Tanya Basu2022.09.16
オンラインゲーム・プラットフォームの「ロブロックス(Roblox )」では、まもなくアバターにプレイヤー自身の表情を真似させることが可能になる。
9月9日にロブロックス開発者会議で発表されたこのアップデートは、当面は一部のクリエイターにのみ提供される。2023年初めまでに、ロブロックスの全ユーザーが利用可能となる予定だ。
ユーザーが手軽にゲームをプレイしたり、作成したりできるロブロックスは、1日あたり5220万人が利用している。当初のユーザー層は未成年者だったが、この数年でティーンエイジャーや20代の間で人気が高まっており、現在、ユーザーの過半数が14歳以上だ。ロブロックス内に作り上げられた豊かで多種多様なバーチャル世界では、他者との交流が可能で、各ゲーム共通で使える自分だけのアバターがある。メタバースにおける経験の先駆けと考えられてきた。
ロブロックスの今回のアップデートは、アップルのアイフォーン・アプリの「ビットモジ(Bitmoji)」と同種のもので、深度センサーによって頭部と表情の動きを測定し、追従するというものだ。ロブロックスの従来のアバターにも表情はある。だが、「平面的」だったと、同社の製品およびアバター担当副社長であるビョルン・ブック・ラーソンは話す。
ロブロックスのアップデートによって、ユーザーは笑ったり、ウインクしたり、額にしわを寄せたりして、アバターにリアルタイムで真似させることが可能となる。目線を動かしたり、頭を振ったり、眉や耳を動かしたりすれば、それも追従する。さらに、ロブロックスによれば、ユーザーはまもなく他のマルチプレイヤー型ビデオゲームのように、他のアバターと直接会話できるようになるという。要するに、今回のアップデートによって、良くも悪くも、現実世界とメタバースの経験の境界があいまいとなり、アバターがよりプレイヤー自身に近付く可能性があるわけだ。
2023年初めまで、上記のアップデート機能は限られたユーザーおよびクリエイターだけに提供される。「信用と安全性」を維持するためだとブック・ラーソン副社長は言う。「想定外の事態が起こることを想定しています」とのことだ。導入を徐々に進めるのは、多数の未成年ユーザー層に対して表情機能を安全に提供できるようにするために、同社の安全性担当チームが下した判断による部分もあるという。例えば、舌を出した表情は、性的誘いとして不適切に利用される恐れがあるため排除したとブック・ラーソン副社長は言う。
時間をかけて展開することで、年齢層が上のユーザーがアバターの豊かな感情表現能力をどのように受け入れるかを確認する機会も生まれる。ロボックスでは、多くのソーシャルメディアやゲーム・プラットフォームがターゲットとする17歳から24歳の年齢層のユーザーが急激に増えていると、ブック・ラーソン副社長は話す。こうしたユーザーが、感情表現豊かなアバターによって「より引き込まれ」、その結果としてロブロックスの利用時間が増えることが見込まれるという。
しかし、さまざまな表情が各文化でどのような意味を表すかに注意を払わなくてはならないと指摘する専門家もいる。神経科学者で『情動はこうしてつくられる(原題:How Emotions Are Made)』(2019年刊)の著者であるリサ・フェルドマン・バレット教授は、「笑顔だから喜んでいると思うのは、非常に西洋的なステレオタイプです」と話す。ロブロックスのユーザーの44.7%が西洋諸国以外に住んでいるため、もっともな懸念だ。
ブック・ラーソン副社長によれば、笑顔や喜びを伝える他の表情は、ロブロックスにおいて現在最もよく使われているという。しかし文化によっては、笑顔が誘いや嘆願を意味する場合もある。西洋人のプレイヤー同士でも、笑顔に対するとらえ方はさまざまで、威嚇や皮肉としてとらえられるかもしれない。
ブック・ラーソン副社長は、アバターをより表情豊かにすることで起こり得る事態を認識しており、時間をかけて展開する理由のひとつはそこにあると力説する。また、フェルドマン・バレット教授が指摘するように、正確に感情を理解するには言語コミュニケーションが重要だ。ブック・ラーソン副社長は、まもなくアバターはボイスチャットでの言語コミュニケーションができるようになると語る。「安全性を確保したいと思っています。もう少しでそれが実現できます」。
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- ターニャ・バス [Tanya Basu]米国版 「人間とテクノロジー」担当上級記者
- 人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。