米国のジョー・バイデン大統領は2021年1月の就任初月、2035年までに電力部門からの炭素汚染を全廃し、2050年までに経済全体で二酸化炭素排出量実質ゼロを達成することを国に求める大統領令に署名した。
この動きにより、米国エネルギー省(DOE)の化石エネルギー局のミッションが大きく変わった。化石エネルギー局は、ほぼ半世紀にわたって化石燃料の効率的な生産方法の開発をミッションとしてきた研究機関である。
その同局は現在、産業のクリーン化の責任を負っている。
約600人の職員と約9億ドルの予算を持つ化石エネルギー局は2021年7月、新たなミッションの主要部分を示す「炭素管理」を局名に加えた。新たなミッションとは、発電所や工場からの二酸化炭素の放出を防ぐとともに、大気から吸収して輸送し、永久に貯留することを可能にする技術の開発と産業の構築を支援することである。
名称を一新した「化石エネルギー・炭素管理局(FECM:Office of Fossil Energy and Carbon Management)」は、従前からの石油、ガス、石炭の生産を専門とする研究部門も引き続き運営している。だが、バイデン政権発足時に同局に加わった炭素除去研究者のジェニファー・ウィルコックスによると、現在は「資源持続可能性室(Office of Resource Sustainability)」と呼ばれる研究開発部門を持ち、化石燃料の生産によって生じる影響を最小限に抑えることが中心的な任務になっているという。ウィルコックスは現在、FECMの首席副次官補として、同局のブラッド・クラブツリー次官補と共に両方の研究開発部門を監督している。
FECMの取り組みは、インフレ抑制法を含む最近の一連の連邦法によって加速されることになる。インフレ抑制法は、炭素の回収・除去・貯留に対する税制上の優遇措置を大幅に強化している。8月に成立した「半導体・科学法(CHIPS法)」は、FECMでの炭素除去研究開発に対して10億ドルを承認している(ただし、実際に割り当ててはいない)。しかし、最も注目すべきは、バイデン政権が2021年末に成立させたインフラ投資・雇用法(インフラ法)が、パイプラインや貯留施設など、二酸化炭素の貯留と除去に約120億ドルを振り向けることである。
FECMは、その資金の多くの行き先を決定する重要な役割を果たすことになる。
インフラ法の成立を受け、エネルギー省は二酸化炭素を地下層で安全に貯留する方法の検証を加速するために25億ドルの投資を発表した。化石燃料発電所や、セメント、パルプ・紙、鉄鋼などを生産する工業施設からの二酸化炭素排出のほぼすべてを防止するための試験・実証プロジェクトにも、35億ドルを資金提供する。また、年間100万トン以上の二酸化炭素を大気中から吸い取ることが可能な工場を開発する取り組みである、直接空気回収(DAC)プロジェクトのために、4つの地域ハブを開発する35億ドルのプログラムも進めている。
ウィルコックス首席副次官補とFECMの炭素管理担当の副次官補であるノア・ダイチに取材し、エネルギー省が目指す新たな方向と、何十億ドルもの資金の活用方法、そして二酸化炭素回収に関する懸念や化石燃料による現在進行中の被害に対する対処方法について、話を聞いた。
「今すぐ投資が必要」
ウィルコックス首席副次官補とダイチ副次官補は、バランス感覚を必要とする厄介な仕事と向き合っている。
多くの環境保護主義者、社会正義擁護者、気候変動コミュニティの関係者たちは懸念している。二酸化炭素回収に対する補助金や資金提供、支援が、化石燃料発電所の …