リンパ節で育つ「ミニ肝臓」、肝不全患者を救えるか?
重度の肝疾患を患う人がまもなく、かつてない治療を受ける。機能しなくなった本人の肝臓の代わりとなるミニ肝臓を体内で育てるという治療だ。ライジェネシス(LyGenesis)という企業の研究者は肝臓で上手くいったら胸腺、膵臓といった臓器を同じ手法で体内に作り出すことを考えている。 by Jessica Hamzelou2022.09.21
今後数週間のうちに、マサチューセッツ州ボストンのあるボランティアが、自分の体内で第二の肝臓を作り出す新しい治療法を試す最初の人になる。そしてこれは始まりに過ぎない。その数カ月後に他のボランティアたちは、体内に最大で6つの肝臓を作り出すことになる用量を試すことになる。
この治療法を開発したライジェネシス(LyGenesis)という企業は、移植適応にならないほど重度の肝疾患患者を救うことを目指している。同社のアプローチは、ドナー(臓器提供者)の肝細胞をレシピエント(移植患者)のリンパ節に注入することにより、全く新しいミニチュア臓器を作り出すというものだ。このミニ肝臓が、元々の病気の肝臓を補うことに役立つとはずだと考えられている。この手法は、マウス、ブタ、イヌに対して有効なようだ。そして次はこれがヒトに対しても有効なのかを試す番である。
もし成功すれば、革命的な治療法となるだろう。臓器を提供するドナーの数は不足している上、提供された臓器が使えないことも多い。組織の損傷が大きすぎたりするからだ。新しい手法を用いることで、従来であれば廃棄されていた臓器が利用可能となり、提供された1つの臓器でおよそ75人分の治療が可能になると研究チームは考えている。
「非常に有望です」。肝再生を専門とする幹細胞生物学者であるボストン大学医学部のヴァレリー・グーン・エバンス准教授は言う(この研究にもライジェネシスにも関与していない)。「このアイデアが臨床の場に出てくることは本当にうれしいことです」。
肝臓はユニークな再生能力を持つ。動物の肝臓を半分に切り取ると、再生して元に戻る。毒物やアルコールで損傷したヒトの肝臓も、通常は再生する。しかし、いくつかの疾患においては肝臓は重度の損傷を受け、回復できなくなる。このような病気の場合、通常は肝移植の適応となる。
しかし、重篤な患者に対しては、移植が常にできるわけではない。ライジェネシスのエリック・ラガス最高科学責任者(CSO)らが別の手法をとるのはそのためだ。ピッツバーグ大学の幹細胞生物学者でもあるラガスCSOは、肝臓疾患に対する細胞を用いた治療法を何年も研究してきた。10年ほど前に、彼は健康な肝細胞を病気の肝臓に注入するというアイデアをマウスで実験していた。
ラガスCSOが研究で用いていた25グラムのマウスの肝臓に注入するのは難しいため、彼と同僚たちはその細胞を、肝疾患を患ったマウスの脾臓に注入した。その結果、その細胞が脾臓から肝臓に移動し得ることが分かった。これら細胞が他の臓器からも移動できるかを調べるため、ラガスCSOのチームは、肝細胞をマウスの体のさまざまな箇所に注射した。
生き残ったのはごく少数のマウスだけだった。ラガスCSOと同僚たちが生き残ったマウスを解剖したときのことを思い返して「非常に驚きました」と彼は語る。「リンパ節があるはずの場所に、ミニ肝臓があったのです」。
小さな保育器
リンパ節は、体中にある、小さな豆のような形をした構造物である。リンパ節は、我々の免疫において、感染症と戦うための細胞を作るなどの重要な役割を担っている。ラガスCSOは当初、肝細胞がリンパ節で増殖することに驚いたが、これは理にかなっていることだと彼はいう。
リンパ節は、通常は免疫細胞がすみかとしている場所ではあるが、急速に分裂する他の細胞にとっても自然なすみかなのである。また、リンパ節では血液がよく供給されるために、それが新しい組織の成長に役立つ。
また肝臓に近いリンパ節は、近くにあるために、病気になった肝臓の死滅しつつある組織が発する、化学的な痛みの信号を受け取ることができるとラガスCSOは言う。これらの信号は、残っている健康な肝臓組織に再生を促すものであるが、重症の場合にはそれがうまく働かない。しかし、この …
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