書類だけのゼロから脱却を、
企業の「脱炭素」を見直す
6つの方法
2050年のカーボン・ニュートラル実現へ向けて、「実質ゼロ」目標を掲げる企業が増えている。だが、植林やカーボン・オフセットなどに依存した不確かな計画は、排出量を削減するどころか増やしてしまう恐れすらある。実際の気候変動対策に役立つ6つの方法を紹介しよう。 by James Temple2022.09.20
ネット通販大手のアマゾンは2019年、事業全体で「二酸化炭素実質ゼロ」を2040年までに達成することを約束した。だがその後、同社の全社的な炭素排出量は40%も急増し、2021年に排出した二酸化炭素は7000万トンを超えた。
企業の誓約と気候変動の進展との間にある溝を示す顕著な例だが、アマゾンに限った話ではない。多くの大企業がカーボン・ニュートラル(炭素中立)やネットゼロ・エミッション(実質ゼロ排出)と呼ばれる目標を達成しようとしているが、その計画には深刻な問題があることが多くの研究や分析から浮き彫りになっている。
炭素中立や実質ゼロ排出が意味しているのは、自社の排出量と同じ分だけの気候汚染物質を防止または除去するさまざまなプロジェクトを支援することによって、排出する二酸化炭素や温室効果ガスを差し引きゼロにすることに過ぎない。言い換えれば、企業は他の誰かにお金を払って埋め合わせをしている限り、地球温暖化ガスを排出し続けることができるのだ。そしてそこに、多くの問題が生じている。
こうした企業の気候計画のほとんどは、植林や森林保護などのカーボン・オフセット(炭素相殺)や、気候変動対策につながると主張する他の取り組みへの投資に大きく依存している。だが、こうした取り組みによって得られる恩恵が実際には大きく誇張されている可能性があることが、研究や調査報道によって繰り返し明らかにされてきた。
そこで現在では、企業に対して気候戦略を根本的に見直し、基本的な実質ゼロ計画よりも高い目標を設定するよう望む、炭素市場専門家や気候アドバイザーが増えている。
ほとんどの企業にとって、現時点で自社の排出量を完全になくすのは、とてつもなく難しいことである。気候汚染は輸送、製造、データセンターの運営などを通して、企業の事業活動に必然的に内在しているからだ。
しかし、実質ゼロ計画の性質そのものが、書類上で定量化できるように見える解決策へと企業を向かわせている。安価なオフセットや怪しげな手段を利用することで、ある程度信用できそうな脱炭素化計画を、トン単位で計上できるのだ。
こうしたやり方は、そろそろやめるべきだ。今後、炭素クレジットの購入は、せいぜい気候変動に対する慈善活動と考えるべきであり、大量の二酸化炭素排出量を記録上消すための現実的な方法と考えるべきではない。
実際に事業活動上の排出量を削減するには、研究開発に莫大な額を投資して新たに生まれるソリューションを支援し、それをテスト・拡大した上で、サプライヤーや他のビジネスパートナーにも同様の変化を追求するよう働きかける積極的な方針を推し進める必要がある。
これらの取り組みが実質ゼロ計画の枠内でクレジットとして計上できるようになることは、当分ないのかもしれない。しかし、企業は疑問の余地がある炭素会計の仕組みを使わずに、長期的な目標を達成する必要がある。
多くの企業や標準化団体が、現在の企業の気候計画が抱えるさまざまな欠陥を認識するようになり、慣行や指針を変更していることは良いニュースと言えるだろう。
ここでは、企業が気候汚染に取り組むため実際的な対策を講じ、産業界を今後数年以内に大幅な進歩の軌道に乗せるのに役立つ、6つの方法を紹介しよう。
1. 直接的な排出を削減する
誤解のないように言うと、実質ゼロは、それを誠実に追求する企業にとっては良い目標である。比較的厳格な一連の指針と見なされている「企業実質ゼロ基準」を開発した「科学的根拠に基づく目標イニシアチブ(SBTi)」の2021年度進捗報告によれば、同基準が認定する排出量目標の達成を約束した企業は、全体として2015年から2020年の間に29%の排出量を削減したという。現在、数千社の企業が、国連グローバル・コンパクトや世界資源研究所などのパートナーであるSBTiと連携し、こうした計画に取り組んでいる。
重要なのは、たとえビジネスのやり方を大きく変えなければならないとしても、企業が直接的に排出量を削減できる方法に焦点を当てることだ。産業部門によっては、保有車両を電気自動車へ切り替えたり、工場を改修したり、低排出ガス燃料へ切り替えたり、主力製品を一から見直したりすることが必要になるかもしれない。
しかし、現在のところ、ほとんどの業界のほとんどの企業にとって、排出量を完全にゼロにすることはとてつもなく難しい。そのため、このプロセスはすぐに限界を迎える可能性があると、IDインサイト(IDinsight)のチーフエコノミストであるダン・スタインは言う。スタインは、炭素除去やオフセットの取り組みの信頼性評価と、気候プログラムに関する企業へ助言するギビング・グリーン(Giving Green)の役員でもある。
オフィスや工場、データセンター、そして増えつつある電気自動車に電力を供給している電力産業部門は、化石燃料の廃絶に近づいてさえいない。航空業界と海運業界は、排出量を削減する方法をまだ見つけられていない。
建築資材、化学薬品、衣料品などを生産する主要産業部門をクリーンにする方法は、まだ試行段階にある。さらに、製造時、輸送時、使用時に二酸化炭素を排出する肥料に大きく依存することなく、大量の食糧を生産する方法もまだ分かっていない。
これらの産業分野をクリーンにするには、研究開発と設備投資の両方で莫大な投資が必要になる。「どこかのブローカーから格安のオフセットを購入」する方が、はるかに手っ取り早くて安上がりだが、その方法では「おそらく何の効果もないでしょう」と、スタインは言う。「得られるものは、非常に空虚なコミットメントだけです」
2. オフセットを避ける
自然をベースにした安価なオフセット・プログラムには、研究や調査報道によって …
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