ティックトック(TikTok)、フェイスブック(Facebook)、ネクストドア(Nextdoor)、その他無数のソーシャル・ネットワークで、流行している動画ジャンルがある。あなたも見たことがあるか、あるいは少なくともスクロールして飛ばしたことはあるかもしれない。再生時間は短く、魚眼レンズ越しの映像で、しばしば「Ring.com」と書かれたロゴが入っているのが特徴だ。
これらの映像は、テレビ・ドアホンを提供している「リング(Ring)」の顧客から得られたものだ。自宅の防犯や配達の監視、また玄関にやって来た人を確認したり、やりとりをするためにリングのテレビ・ドアホンを設置した人たちだ。
#RingDoorbellのハッシュタグはティックトックだけで25億回以上の再生回数を記録している。リングのテレビ・ドアホンが捉えた映像は独自の人気カテゴリーとして確立しており、これらの映像は2022年9月に放送が始まったテレビ番組「リング・ネーション(Ring Nation)」を通して、さらに多くの視聴者に拡大するかもしれない。
同時に、この番組はリングのイメージをきれいに塗り替えるだろう。同社は過去約10年間にわたり、顧客データの管理方法、特にユーザーの同意なく司法当局に映像へのアクセスを許してきたことで、批判を浴びてきた。
「リング・ネーション」の発表リリースによると、同番組は楽しい動物やプロポーズ場面、ご近所との心温まるふれあいを取り上げ、注意深くイメージを作り上げていくようだ。そして番組と、ネットでランダムに見られるリングの動画との差別化を図るためだろうか、ナレーターはコメディアンのワンダ・サイクスが担当する。配給会社はMGMスタジオ(MGM studios)で、リングと同じくアマゾン(Amazon.com)傘下の企業だ。制作も「オン・パトロール:ライヴ(On Patrol: Live)」を手掛けたアマゾン傘下のビッグ・フィッシュ・エンターテインメント(Big Fish Entertainment)が担当する(この番組は以前は「ライヴ・PD(Live PD)」というタイトルで知られていた。警察の行為および時に暴力と、エンタテインメントの間の境界線を曖昧にしたことで物議を醸したリアリティ番組だ)。
「当社のお客様は、使用中のリング製品やリングのサービスが、いかに地域社会とつながり、お客様が特に大切にしているものを守るのに役立っているか、いつも映像を共有してくれています」。リングのエマ・ダニエルズ広報担当者はMITテクノロジーレビューに、こうメールでコメントを寄せた。
これらの動画はさらに多くの動画を生むと、電子フロンティア財団の政策アナリストでプライバシーを専門とするマシュー・グアリグリアは語る。今回のテレビ番組は、「カメラが捉えた、おかしくてかけがえのない小さな瞬間がたくさんある」ことを視聴者に印象付けることになるとグアリグリアは言う。しかし、これは「どこでも、いつも、誰でも監視下に置かれるという究極の目標に向かうだけです」と、グアリグリアは付け加える。
そしてもちろん、そのような瞬間を独特の美的感覚の映像としてリングのテレビ・ドアホンで捉えようと思ったら、まずはリングのテレビ・ドアホンが必要となる。再生回数を稼げるジャンルだということが証明され、確立されれば、ネット上で、またはテレビで流行するという成功を真似しようとする者が出てくる。それがネットでバズが生まれる仕組みだ。そしてその仕組みが「リング・ネーション」を実質的に、さらに多くの動画を無限ループの中で生んでいく拡張バイラル・マーケティングキャンペーンにしていくだろう。1つ1つの動画が、リングという製品自体の低コスト・マーケティングの一環となるわけだ。
「巧妙なごまかし」
「リング・ネーション」は、サンタモニカに拠点を置くリングによる、監視カメラ映像をエンターテインメントに変身させる実験的な試みだが、決して初めての取り組みではない。
リングのテレビ・ドアホンが捉えた動画が同社のユーチューブ・チャンネルに初めて現れたのは2015年。チャンネル創設後わ …