2021年10月、フェイスブックは大規模な事業転換を発表した。社名をメタ(Meta)に変更し、「メタバース」と呼ばれるインターネットの未来像を通して、拡張現実(AR)と実質現実(VR)に注力するというものだ。実はこの戦略は、インスタグラムの一見軽薄な機能の助けを借りながら、何年も前から徐々に形にしてきたものである。髪の生え際に仔犬の耳をつけたり、唇を大きく見せたりする顔フィルターは、インスタグラムに加えワッツアップ(WhatsApp)も傘下に置く同社による、AR/VRのための高度な技術インフラの上で動作している。何千人ものフィルター・クリエイターたちが自作のフィルターを無料で提供し、世界中の何百万人ものユーザーが毎日この機能を使って、メタに大量のデータを提供しているのだ。
デジタル美容文化に関する数少ない研究が明らかにしてきたことは、インスタグラムのようなAIレコメンド・アルゴリズムに依存する視覚的プラットフォームが、驚くほど速いスピードで美の基準の幅を狭めているということだ。デジタル世界の中に限られたこととはいえ、これらのプラットフォームは、フィルターによってユーザーがその理想を実現することを手助けしている。顔フィルターをオンラインで過度に用いると、特に若い女性の精神衛生に有害な影響があるという証拠が存在する。民族性があいまいで、完璧な肌を持ち、目や唇は大きく、鼻は小さく、顔の輪郭が完璧な曲線を描く「インスタ顔」は、一般に認められる1つの典型的な美の基準となっている。その多くの部分は、フィルターによって実現されるものだ。
しかし、あらゆるフィルターの裏側には、その求められる外見を実現するために、コンピューターの画面上で線を引き、顔の形を変形させているフィルター・クリエイターたちがいる。美というものは主観的なものかもしれないが、社会は女性や女の子たちに対して、不自然なほどに白く細く女性らしいといった、難しく実現不可能な理想を押し付けている。
インスタグラムは、フィルターについての情報、特に美容フィルターについての情報をほとんど公表していない。2020年9月、メタは6億人以上のユーザーが、これまでに1つ以上のメタのAR機能を試したことを発表している。メタバースは、メタやAR/VR製品に投資している企業よりもはるかに大きな概念である。スナップ(Snap)とティックトック(TikTok)は膨大な数のフィルター・ユーザーを抱えており、スナップは場所ベースのARにも投資している。メタには、オキュラスVRヘッドセットやレイバン・スマートグラスといった製品群もあるが、フェイスブックを人気,者にしたのは、「顔」である。
美容フィルター、その中でも特に顔の形や特徴を劇的に変化させる「変形フィルター」は、非常に人気があり、また同時に議論を呼んできた。インスタグラムは、精神衛生に与える影響を懸念して、2019年10月から2020年8月まで、いわゆる変形効果フィルターの作成を禁止していた。ポリシーはその後更新され、整形手術を推奨するフィルターのみが禁止されるようになった。更新されたポリシーでは、「コンテンツはフェイスブックのコミュニティ規定に従い、危険性のある美容処置を奨励したり、美容処置の販売を描写したりしてはいけません。それには、手術線による美容処置に関する描写を行う効果も含まれます」と述べられている。2021年4月にMITテクノロジーレビューの取材に対して同社が寄せたコメントによると、このポリシーは「フィルターの公開申請時に、人間と自動システムの組み合わせによって効果を審査する」ことで実効性を持たせているという。しかし複数のクリエイターの証言によると、変形フィルターはしばしば不規則に問題が指摘され、美容整形手術を奨励するとされる基準は不明確だという。
「話題になった」
多くの人は美容フィルターをただの遊びとして使っているが、実はこの「仔犬の耳」は技術的偉業である。まず、これには顔認識が必要だ。アルゴリズムがカメラが捉えた画素の様々な色合いを解釈し、顔とその特徴を特定するのである。次に、実際の顔の画像の上に、標準顔のデジタル・マスクをかぶせ、マスクの仮想的な顎ラインと鼻をその人のものと合わせて形を調整する。そのマスクの上に、クリエイターが開発した画像を乗せることで、画面に表示される効果フィルターが作られる。ほんの過去数年間に開発されたコンピューター・ビジョン技術により、リアルタイムで動的にこのようなことができるようになっているのである。
「スパークAR(Spark AR)」は、インスタグラムによるソフトウェア開発キット(SDK)である。これを使うこと …