住み良い都市を作り出す、シカゴ発の「AoT」センサーに広がり
シカゴ市から始まった都市環境をさまざまなセンサーで観測する「AoT」デバイスは今や他の都市にも広がり、大気質の観測や地震監視などの幅広い用途で使われようとしている。 by Christian Elliott2022.09.02
2012年のことだ。チャーリー・キャトレットは、シカゴのダウンタウンにあるドイツレストラン「バーグホフ」のテーブルで、紙ナプキンの上に無我夢中でソフトウェア・アーキテクチャを描いていた。当時アルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory )の上級コンピューター科学者だったキャトレットは、米国環境保護庁(EPA)の科学者と共同で、大気汚染が住民の健康に及ぼす影響を解明する研究をしていた。だが彼は、EPAのデータに限界を感じていた。大気環境センサーはシカゴ市全体でたった12台しかなかったのだ。キャトレットはもっと大きな夢を抱いていた。都会のヒート・アイランド現象から騒音公害まで、あらゆるものを測定できる低コストの巨大なセンサー・ネットワークだ。
- この記事はマガジン「量子時代のコンピューティング」に収録されています。 マガジンの紹介
絶好のタイミングだった。シカゴ市は30万基の新しい街灯を設置しようとしていたが、それはキャトレットの考える「都市のフィットネス・トラッカー(fitness tracker for the city)」の設置場所にぴったりだったのだ。その後10年間で、全米国立科学財団から1200万ドルの資金提供を受けて、キャトレットの「アレイ・オブ・シングズ(AoT:Array of Things)」構想は科学者、住民、政府機関の協働で、都市の精密計測の分野に変革をもたらした。研究チームは、大きな白い調理用大型ボウルを逆さに4つ積み重ねたような、わざと人目につくような外観のセンサーを考案した。その中には、カメラとマイク、湿度、振動、磁場、温度、大気汚染、大気圧のセンサーを備えていた。
AoTの各ノードは、エヌビディア(Nvidia)のGPU(画像処理装置)を搭載し、外界の画像をその場で処理して、処理済のデータのみをネット …
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