8月7日に米国連邦上院で可決(日本版注:12日に下院でも可決)された2022年インフレ抑制法案( Inflation Reduction Act)は4000億ドル規模となり、米国史上最大の気候変動対策とクリーンエネルギーへの投資となる。これは環境問題における明らかな勝利だ。だが、この資金拠出が二酸化炭素排出の削減にどれだけ貢献するかはいまだ明らかでなく、結果の確実性は一部の人たちが主張するよりはるかに低い。
税額控除、補助金、融資制度を組み合わせた同法案により、2030年までに最大年間10億トンの排出量削減が可能との推定もなされている。いくつかの分析によると、これは米国が温室効果ガス排出量を2005年のピークから最大40%削減できることを意味するという。
諸々のモデルは共通の推定値として、この40%削減に収束している。だが、一部のエコノミストは、税額控除の効果は不透明である可能性があり、将来の実際の排出削減量を予測するのは困難だと強調している。
不確実性の理由の一つは、同法案が規制や義務ではなく金銭的インセンティブに著しく依拠しているため、効果が消費者の選択やビジネスの意思決定に依存することである。そのどちらも予測不能に陥る可能性がある。
例えば、インフレ抑制法案では再生可能エネルギーによる電力をより多く生産する企業がふんだんに報奨を得られるため、排出量削減のほとんどは電力業界によって実現されると予想されている。だが、太陽光発電所や風力発電所の新規建設に対する地元の反対や、クリーンエネルギー・プロジェクトに対するその他の障壁によって進行が停止し、投資意欲が削がれ、展開が停滞する恐れがある。
タダで手に入る資金
税額控除は、インフレ抑制法の温室効果ガス排出量削減戦略の中核に位置付けられる。
同法案の税額控除の一部は個人向けだ。自宅をアップグレードして電化する人向けに約350億ドルが割り当てられ、電気自動車の新車購入では7500ドルの税控除(中古車の場合は4000ドル)がある。だが、どれだけ多くの人が電気自動車を購入するかは、経済の健全性、安定した供給、製品に魅力を見い出せるかどうかに依存している。
その他の税控除は、クリーンエネルギー・プロジェクトの建設に携わる企業や公共事業体が対象だ。これは法案の大きな部分を占め、原子力発電所の稼働継続を目指すプログラムを含めて約1600億ドルに上る。
これらの税控除には2つの方式がある。投資税控除はプロジェクト建設の初期投資に対する比率として計算され、30%から始まる。プラント費用が10億ドルの場合、建設業者は3億ドルの控除を受ける。他方、生産税額控除はプラントの生産量を基準にし、生産電力1キロワット時あたり2、3セントが支払われる。
クリーンエネルギー・プロジェクトの建設を目指す企業は、生産税額控除か …