米国の「暗い日」にスマホが果たした役割
人工妊娠中絶の権利を認めた判決を覆した6月の米最高裁の判決を、多くの市民はスマホで知ることとなった。スマホは中絶希望者を支援する活動にも、反中絶団体の情報戦にも使われている。 by Melissa Gira Grant2022.09.20
私は、中絶の権利を失ったことをライブブログで知った。
2022年6月24日の朝、米国連邦最高裁判所がロー対ウェイド判決(編注:1973年に下された、中絶を合衆国憲法上の権利として認める判決)を覆した時、私はスコータスブログ(SCOTUSblog)を読んでいる約1万6000人の1人だった。20年前に開設されたこのニュースサイトは、最高裁とは公式な関係はなく、裁判所から報道機関として認められたことも一度もない。だが、米国最古のメディア関連賞であるピーボディ賞(Peabody Award)を2013年に受賞した初のブログである。判決日には、記者たちが即座に判決文を分析し、読者の質問に答える。そして、法律のニュースにこだわりを持つ人と、初めてこのブログでニュースを読む読者とが一緒になって最新の情報を追う。ブログを訪れる読者は、単にニュースを知りたいだけの人、時には怒りをぶちまけたい人など、さまざまだ。ひときわ目立つ判決が予想される場合(今回のドブス対ジャクソン女性健康機構裁判がそうだ)、スコータスブログの読者はケーブル・ニュースを見ている人よりも先に情報を得ることが多い。
スコータスブログのメディア編集者であるケイティ・バーロウは、裁判所の外からティックトック(TikTok)で「判決が出ました」とライブ投稿した。バーロウ編集者は、判決が出た瞬間にカメラの前に立った数少ないメディアの人間の1人だった。「(判決文を)読み込み中です。少々お待ちください」。彼女は数秒間黙って下を向いてスマートフォンを見つめ、うなずいた後、再び顔を上げて要点を簡潔に告げた。「中絶は憲法上の権利として認められませんでした」。ティックトックを見ていたある読者は、バーロウ編集者が静かに判決を読んでいる様子をライブで見るのは「判決の現実が重くのしかかるのを見るようで」辛かったとコメントし、「おつかれさまでした」と付け加えた。歴史が大きく変化する時でさえ、非常に親近感が感じられるプラットフォームを使うことは、中絶の権利を認めた判例が公式に覆された後の時代に突入するのにふさわしい方法だった。最高裁は不明瞭なことで悪名高いが、同時に人々の生活の最も身近な事柄に対して直接的な権力を行使するので、なおさらそのように感じられるのだ。裁判官席で裁判官が判決を読み上げる時、多くの人たちは裁判官が人々の自由の境界を決定するのを直接見ることはできない。私たちは想像するしかないのだ。
スコータスブログのチームは判決当日、裁判所の外から報道していたが、裁判所に入る資格を持っている記者よりも自由だった。パンデミック以前に最高裁のプレスルームへの入室を許可されていた記者でも、法廷の記者席にスマホやその他の個人的なデバイスを持ち込むことを許可されておらず、記者席の多くは裁判官席の視界から遮られている。デバイスを使うには、プレスルームに戻らなければならない。プレスルームの多くのスペースは、いまだにタイプライターや放送用ブースで占められている。ネット接続を続けたい記者は、プレスルームに残って法廷の音声を聞くしかない(新型コロナウイルスのパンデミックが起こるまで、裁判所は一般向けの音声のライブ配信さえしていなかった)。午前10時過ぎに判決が発表されると同時に、判決文のコピーも配布される。報道機関はインターンを派遣して判決文を手に入れ、裁判所のすぐ外に設置したカメラに向かって放送する。これは驚く …
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