KADOKAWA Technology Review
×
幹細胞から人工胚、「最高の臓器プリンター」目指すイスラエル企業
Ms Tech
生物工学/医療 Insider Online限定
This startup wants to copy you into an embryo for organ harvesting

幹細胞から人工胚、「最高の臓器プリンター」目指すイスラエル企業

イスラエルの生物学者は、マウスの幹細胞を使って本物そっくりの人工胚を形成し、機械の子宮の中で数日間、成長させることに成功した。同氏が創業者に名を連ねるスタートアップ企業は、ヒトの細胞を使って人工胚を作り、移植用に初期の臓器や組織を採取する構想を持つ。 by Antonio Regalado2022.08.17

新しい形態の長寿医学を模索するイスラエルのあるバイオテクノロジー企業が、胚の段階の人間を作り、移植治療に使う組織を採取するつもりだという。

この企業は、リニューアル・バイオ(Renewal Bio)。同社は、イスラエルのレホヴォトにあるワイツマン科学研究所(Weizmann Institute of Science)の生物学者であるジェイコブ・ハンナ教授が実証した、幹細胞テクノロジーと人工子宮の最新技術を研究している。ハンナ教授はマウスの幹細胞を使って研究室で非常にリアルな外見のマウス胚を形成し、心臓が鼓動し、血液が流れ、頭蓋ヒダができるまでの数日間、「機械の子宮」の中で成長させた。

精子も卵子も子宮さえもない状態で、これほど高度な胚が模倣されたのは初めてのことである。ハンナ教授の研究論文は8月1日にセル(Cell)誌に掲載された。

患者活動家団体であり世界幹細胞サミットの創設者であるバーナード・シーゲルは、「この実験には大きな意味があります」と言う。「次の哺乳類は何になるのだろうかと思います」。

その答えは人間である。ハンナ教授はすでにヒトの細胞を使ってこのテクノロジーを再現することに取り組んでおり、最終的には妊娠40日から50日に相当するヒト胚の人工モデルを作りたいとMITテクノロジーレビューに語った。この段階になると、基本的な臓器はもちろん、小さな手足や指も形成される。

「我々はこの胚を最高の3Dバイオプリンターだと考えています」とハンナ教授は言う。「臓器や適切な組織を作るのに最適な素材なのです」。

研究者が軟骨や骨のような単純な組織を作成したり培養したりすることはすでに可能だが、より複雑な細胞や臓器を作ることは難しいことがわかっている。しかし、胚は自然に体をつくり始めるのだ。

「『初期の臓器を持つ組織化された胚を、移植に使える細胞を採取するのに利用できないだろうか』というのが、当社のビジョンです。我々はこれがおそらく普遍的な出発点になるだろうと考えています」とハンナ教授は言う。

胚性血液細胞を採取して増殖させ、高齢者に移植して、免疫システムを再生させられるかもしれない。もう1つのコンセプトは、加齢に伴う不妊症の女性の胚をコピーして培養することである。そうすれば研究者は、モデル胚の生殖腺を採取して、それを研究室で、あるいは女性の体内に移植してさらに成熟させ、若い卵子を作り出せる。

リニューアル・バイオはこれまでに、ベンチャーキャピタルのNFXからシードキャピタルで資金を調達しており、他の投資家への説明もしている。そのピッチ資料には、同社のミッションは「人類を新しくして、我々全員を若く健康にすること」だと書かれている。

今度は人間

リニューアル・バイオの正確な技術計画は秘密のままであり、同社のWebサイトはただの名刺に過ぎない。「詳細がほとんどないのには理由があるのです。過剰な約束はしたく …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る