格安スマホは、最近、インドやインドネシアといった発展途上国で急速に普及している。IBMは、携帯電話網の混雑時や切断時でも、天気や自然災害に関する緊急警報が拡散されるシステムを格安スマホに搭載する方法を開発したという。
携帯電話網を経由せずに緊急警報を拡散するテクノロジーは、ウェザー・カンパニー(IBMが2016年に買収)が2月15日に発表した新型アプリ(発展途上国向けのアンドロイド端末用)に採用されている。アプリを使うと、携帯電話網に接続していなくても、ブルートゥースやWi-Fiで暴風や洪水、津波等の災害に関する警報をスマホで受信できる。警報は、端末同士の複数のリンクを横断して発信されるため、遠くまで届く。
アプリに使われた手法「メッシュ・ネットワーク」の開発に関わったIBMトーマス・J・ワトソン研究所(ニューヨーク州ヨークタウン)のニルミト・デサイ研究員は「データが到達する範囲を拡大して、必要な時に常にデータが届くようにしたいのです」という。
ウェザー・カンパニーは、今月末にインドのアプリユーザー向けに、メッシュ・ネットワーク機能を稼働させるつもりだ。インドでの稼働後、ウェザー・カンパニーは発展途上国市場向け格安アンドロイド用アプリが利用できる、アジアやアフリカ、ラテン・アメリカの41カ国でも、徐々にメッシュ・ネットワーク機能を稼働させる計画だ。
企業や学術機関、軍でも、デジタル通信の障害回復機能を高める手段として、メッシュ・ネットワークの研究が長年進められてきた。スマホ普及率の向上により、インターネットがなくても通信網の接続状態を拡大できる可能性が開かれたのだ。
たとえば、政府による携帯電話網の封鎖を恐れた香港のデモ参加者は、チャットアプリ「ファイア・チャット」を使った。またネバダ州の砂漠で開催される奇祭「バーニングマン」でも、ファイア・チャットは評判だ(“Messaging App Weaves Smartphones Into an Alternative Internet”参照)。
メッシュ・ネットワークによるテクノロジーが期待通り稼働すれば、ウェザー・カンパニーの先進性とIBMの資本力により、このプロジェクトは、他社の消費者向けメッシュ・ネットワーク・プロジェクトよりも著しく成長する可能性がある。
フリンダース大学(オーストラリア)のポール・ガードナー=ステファン准教授は、ウェザー・カンパニーがメッシュ・ネットワークを普及させれば、グーグルはこの手法と互換性のあるスマホを開発せざるを得なくなる、という。ガードナー=ステファン准教授は、、携帯電話網がない地域用のメッシュ・ネットワーク・テクノロジーを開発するサーバル・プロジェクトを率いている。
アンドロイドOSは世界中(特に貧しい地域)のスマホで使われているソフトウェアだが、メッシュ・ネットワーク機能は用意されていない。ソフト開発者がメッシュ・ネットワークを実装するには、精緻な手法を駆使する必要があり、できることは限られている、とガードナー=ステファン准教授はいう。「もしグーグルがソフトウェアの開発を積極的に支援してくれれば、面白いことをしたり、メッシュ・ネットワークのテクノロジーで人々を支援したりするのがもっと簡単になるでしょう」