問題だらけのツイッター「トレンド」機能がなくならない理由
ツイッターのトレンド機能については、これまでさまざまな問題が指摘されてきた。同機能の問題点は何なのだろうか? これまでにどんな修正がなされ、なぜ依然として残されているのだろうか? by Abby Ohlheiser2022.08.03
ツイッターが2008年に「トレンド」と呼ばれる新機能を導入したとき、共同創業者のジャック・ドーシーは、朝のメディアチェックの進化形だと説明した。ドーシーは短いブログ投稿でこう述べている。今までは新聞やオンラインメディアを読んで世の中の動きをつかんでいた。だが、トレンドなら「一目で」「今この瞬間に世界が重要視している事柄が分かり、自分にとって大事なことを探る道が開けるのです」 。
以来、トレンドの設計は変わり続けてきた。国内と全世界のトレンド・トピックのランキング一覧は今も存在するが、表示されるトピックの一部は、各ユーザーの興味や現在地に合わせてカスタマイズされた内容だ。最近では、トピックによっては代表的なツイートが添付されたり、背景説明が加えられたりするようになった。
では現在、世界で重要なことは何だろうか? 7月22日には#ClimateScamがトレンドに上り、ユーザーは、気候変動はデマだと主張する人々が発信するおびただしいミームを目にすることになった。7月24日の週の初めには、米国では、極右の反LGBTQ陰謀論者の扇動をきっかけに「ソドムとゴモラ」がトレンドになった。直後に、2021年1月6日のクーデター未遂事件で殺害された女性アシュリー・バビットの名とともに「サタニック・パニック(悪魔的儀式虐待)」の語が急増し、死亡状況にまつわる陰謀論のネタの中心になった。
アルゴリズムが制御するトレンドのリストが大勢の視聴者に向けて劣悪な情報を大げさに広めているという指摘は、これまでにもなされてきた。2022年になっても依然としてツイッターにこの機能が残っているのはなぜなのだろうか?
ツイッターが主張するところのトレンド機能の主旨は、ドーシーのブログ投稿からほとんど変わっていない。ツイッターの広報責任者のリンゼイ・マッカラムは電子メールの中で、トレンドとは、世界やツイッター上で今起こっていることを随時伝えるために設計された機能だと述べている。本来の働きが適切になされれば、トレンドはオンライン・イベントのようになる。「チョコ・タコ(Choco Taco)」アイスクリームが製造中止を受けてトレンドになり、人々がそれぞれ意見を述べるきっかけになったのはその一例だ。
テクノロジー・アナリストで、ストップ・オンライン・バイオレンス・アゲインスト・ウィメン(Stop Online Violence Against Women)の創設者であるシャイリーン・ミッチェルは、トレンドは、ツイッターが語るツイッター自身ののストーリー、つまりツイッターが世間の話題をとらえ、提供するしくみを説明するストーリーの中核をなしているという。だが、たとえ無害な内容であっても、操作されたトレンドとアルゴリズムで生成したトレンドリストの増幅された過激さは、そのストーリーの基盤をむしばむ。
「以前からツイッターはトレンドが真実のデータで、注目の話題であるかのように見せようとしています。でも、その大半はゲーミフィケーションです」とミッチェルは言う。
トレンドが重要な公的機能を果たしているというツイッターの主張に加えて、この機能が存続している理由はもうひとつある。トレンドはツイッターの収益源なのだ。ツイッターは2010年にトレンド内の広告スペースの販売を開始した。現在ツイッターはトレンドテイクオーバー・スポットと呼ばれる枠を販売し、ツイッタートレンドの検索結果の中に広告を表示している。
例えば7月28日には、クリストファー・ノーランの新作映画のスポンサー付きトレンドトピックがツイッターの米国トレンド・リストのトップと、カスタムで表示されるトレンドの「おすすめ」コラムに掲載された。
「ユーザーにとっての実際のメリットと、自社の利益とのバランスをよく考えていないのでしょう」とミッチェルは言う。ツイッターはトレンドの広告プログラムについての取材を拒否した。
ツイッターはトレンドを改良する気がないわけではない。例えば、モーメントのような機能を導入して、ツイッターで展開されている会話を厳選し、コレクションとしてまとめられるようにしている。ツイッターは、特に好ましくないトレンドを手動で無効にすることもある。今では、アルゴリズムと人間のコンビネーションでトレンドの代表的ツイートを選び、背景説明を追加している。2020年、米国の大統領選挙が近づくと、ツイッターはユーザーのカスタマイズリストに表示されるトレンドトピックを、背景説明のあるもののみに限定した。
そしてもちろん、トレンドのトピックは、社会的に無視されがちな声も増幅するので、社会運動に使える発展性のあるツールになっている。2014年の#BringBackOurGirls、2009年の#IranElectionのハッシュタグはその一例だ。#MeTooや#BlackLivesMatterもそうだ。近年は、カウンター・プログラミングという活動形態も出てきている。人種差別などの有害なトレンドトピックを意図的に乗っ取り、不快な思想を喧伝する人々を追い出すのだ。
ツイッターは、トレンドを退けるよりも機能の改善に取り組むほうがメリットがあると主張し、トレンドのトピックのサブセットに背景説明とソースを付与する人間のキュレーターの役割を強調している。
しかし、害を及ぼし得る要素を解決しようと何度も試みているにもかかわらず、トレンドは本質的に変わっていない。投稿頻度の急増を自動的に監視してツイッターにその日のトピックを表示する機能であるはずが、会話を操作してニュースを生成する場になっている。
同じ手口がたびたび使われている。2013年、4chan(フォーチャン)のユーザーがジャスティン・ビーバーのファンに自傷行為を促すハッシュタグを世界のトレンドにしてしまった。ボストンマラソン爆弾犯の1人を支持するハッシュタグも同じ年に流行した。ライル・ナサ・キアムとシャフィカ・ハドソンは、2014年の#EndFathersDayの拡散について調査し、ツイッター上で黒人女性を攻撃する組織的なキャンペーンの一環として悪意を持って黒人フェミニストになりすましているアカウントのネットワークの存在を明らかにした。数カ月後には、ゲーム業界の女性やジャーナリストを狙った組織的な嫌がらせのキャンペーンが実施された。ハッシュタグ#Gamergateを中心に人を集めたこのキャンペーンは、繰り返しトレンド入りして支持者を喜ばせた。
2016年の米国大統領選挙の数日前には、#SpiritCookingがトレンドに上った。小さなサタニック・パニック説は増幅されてピザゲート(Pizzagate)陰謀論に発展した。トランプ政権そのものが、ソーシャルメディア上の注目を延々と乗っ取り続けるサイクルだった。かかわったのは大統領本人のアカウントや、極右のインフルエンサーによる組織的キャンペーンだ。#StopTheStealは、2020年の選挙でトランプが繰り返した不正投票の虚偽の申し立てに最も密接にかかわったトレンド・ハッシュタグだ。このハッシュタグでムーブメントが拡大し、米国議会議事堂の襲撃事件につながった。
他にも事例は尽きない。トレンドのハッシュタグは、冗談で他人の人生を破壊しようとするための調整場所の役割を果たしている。有害なファンダムにとって娯楽、リクルートツールになっているのだ。そして、疎外されている集団に対する攻撃に繰り返し使われている。
今では、少人数の集団でもトレンドを乗っ取れるプロセスが文書化されている。最近、コーネル大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者が、2019年のインド総選挙期間中にツイッターでトレンド入りしたある組織的なキャンペーンを追跡した。ワッツアップ(Whatsapp)の公開グループのチャット履歴とツイッターのデータを分析すると、インドの右翼政党の数人のオーガナイザーが、特定のメッセージやキーワードを載せた投稿の増減を調整し、インド国内で何百ものトピックをトレンドに上げていたことが分かった。そうしたトレンドは、その後、メディアで取り上げられている。
トレンドリストのゲーミングに関して実際に変わったのは、ツイッターのモデレーションを回避したいときに必要な戦略のレベルだけだとミッチェルは言った。例えば、さまざまな小児性愛の陰謀論を信じるQアノン(QAnon)の支持者は、ツイッターでトレンドになっているトピックを日常的に入手して、自分たちに注目を集めるために使っていた。そのハッシュタグには、運動の名称や関連するフレーズが含まれていることもあった。
2021年に入り、ツイッターはQアノンに関するアカウントとトピックを大規模に取り締まると発表した。数日後、ハッシュタグ#SaveTheChildrenがトレンドになった。このフレーズは、一般的に子どもの人身売買撲滅を目指すキャンペーンに関連していて、Qアノンのアカウントと陰謀論に親和的なアカウントが広めていた。
ツイッターは、プラットフォームの悪用の防止に力を入れており、トレンドにも対策が必要であることは分かっているという。こうした取り組みはおそらく、今も続いているのだろう。だがその一方で、7月28日に朝のコーヒーを片手にアプリを眺めた米国のツイッター・ユーザーは、英国王室の一員のいかがわしいゴシップがトップ10のトレンドに上がっているのを目にしている。
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- アビー・オルハイザー [Abby Ohlheiser]米国版 デジタル・カルチャー担当上級編集者
- インターネット・カルチャーを中心に取材。前職は、ワシントン・ポスト紙でデジタルライフを取材し、アトランティック・ワイヤー紙でスタッフ・ライター務めた。