国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、二酸化炭素排出の早急な削減に加え、「今後数十年の間に毎年数十億トンの二酸化炭素を大気から除去しなければならない可能性がある」と警告している。地球がさらに危険なレベルまで温暖化するのを防ぐため、あるいは元に戻すためにだ。
こうした目標を実現するためのさまざまな方法を模索する研究グループやスタートアップ企業が増えてきている。温室効果ガスを吸収する施設の建設や、さまざまな鉱物を使って陸上や海洋に炭素を閉じ込める方法などを研究している。
しかし、二酸化炭素の除去は厄介なテーマになりつつある。温室効果ガスの除去に注目が集まることで、気候変動に対処するための最も明白で直接的な方法を、政府や企業が先延ばしにしたり、避けたりすることになりかねない懸念がある。それは、「温室効果ガスを、そもそも大気中に排出しないようにすること」だ。
大量の二酸化炭素を排出し続け、将来は大気を浄化すればよいという都合のよい考え方は、いわゆる「モラルハザード」の一例である。化石燃料の使用を続け、気候変動に対処するためのコストを将来の世代に押し付けてしまう危険性がある。
これはもっともな懸念だ。一部の企業は、「二酸化炭素を除去できれば、世界全体において現時点の半分近くの量の二酸化炭素を排出し続けられる」と誤った説を唱えている。しかしそのためには、技術的・環境的・経済的、あるいはそのすべてにおいて、ほぼ間違いなく不可能なレベルで二酸化炭素を回収し、閉じ込めておく必要がある。
しかしながら、モラルハザードへの懸念から、二酸化炭素を除去することを悪者にすれば、さらに大きな危険を生むリスクがある。必要な投資を先延ばしにし、将来の気候変動に関する目標達成を脅かすというリスクだ。残念ながら、取り組みの数十年の遅れにより、気候変動に関する目標を達成するには、現在の排出量を削減すると同時に、今後数十年間で大量の二酸化炭素を除去する設備を構築することはほぼ不可避になってしまった。
排出量削減だけでは不十分
そもそも、なぜ二酸化炭素の除去が必要なのだろうか。また、なぜ排出量を「完全にゼロ」にするだけでは、気候変動を止められないのだろうか。最近の国連の報告書では、「2100年までに温暖化を産業革命以前の水準から2℃未満に抑える」という気候モデルシナリオにおける炭素除去のメリットが4つ、明らかにされている。
第一に、経済の大部分において …