エアコンなし、電気なし
49℃の熱波が襲った
インド農村民の過酷な生活
この夏、記録的な熱波がインドを襲った。少数民族が住む農村に住む人々は、扇風機やエアコンもない環境で、50℃近くの気温と戦いながら暮らしている。 by Snigdha Poonam2022.09.06
スーマン・シャキャは、寝室のコンクリート壁を触ってみてくれと私に言った。寝室には彼女の1歳になる息子が汗びっしょりで横になっている。壁はまるで熱いフライパンのように私の手を焼いた。「家族全員のロティを作るために、こんな天気で熱いフライパンの前にずっと座っていることを想像してみてください」と彼女は言う。
外の気温は44℃だ。私の喉は渇き、頭はくらくらしていた。汗が顔に流れ落ちて目に入り、視界がぼやけた。
シャキャは、北インドのウッタル・プラデーシュ州にあるナグラトゥライという農村に住んでいる。ここのところ、暑さが残酷なほどにひどくなっている場所だ。村の住民は昔から暑い夏に耐えてきたが、ここ数年はその彼らにとっても厳しいほどの暑さが襲っている。
今年にいたっては厳しい冬が終わった3月から気温が上がり続けている。5月中旬には49℃という、過去122年間の最高気温を記録した。5月以降、地元のニュースは、記録的な暑さのために50人以上の死者が出ていると報じている。
4月末、日中の気温が45℃を超えたとき、ナグラトゥライ村の住民の多くは、屋外の吹き付ける熱風の中に避難した。インド北西部の気温が危険なほどに上昇し始めてから、地元政府はできる限り太陽の下に出ないように呼び掛けている。だが、ナグラトゥライ村はまだ電化されていない数少ない村の1つである。この村の150軒あまりの家庭には、扇風機もエアコンもない。
代わりに、ナグラトゥライ村の女性たちは屋根の上で料理をするようになった。太陽が上から火を吹き付ける中、女性たちは何時間も座り、粘土のかまどの中に火種を詰め込んでいる。「顔の汗をぬぐうこともできません。手が濡れてロティが台無しになってしまう」とシャキャは言う。
原因と結果
気候変動が南アジアの熱波を悪化させていることはもはや疑う余地もない。今年だけでも、2つの新しい研究がその関係性を見つけ出した。 ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)の報告によると、今年の熱波の可能性は19世紀に比べて30倍増加したという。また英国気象庁が実施したアトリビューション研究は、インドとパキスタンで前例のない熱波が起きる可能性が、気候変動によって 100倍高くなったと指摘している。次に答えるべき問題は、命に関わるような暑さに直面した人々が、どのように対処していくのかということである。
「ほぼ全ての人が影響を受けています」。インド西部のグジャラート州にあるインド工科大学ガンジナガルの気象学者、ヴィマル・ミシュラは言う。「(他の人よりも)影響が少ないのは、エアコンを買う余裕がある人たちです」。インド国家災害管理庁は、インドの全28州のうち23州が熱波に対して脆弱であるとしている。
実際に、インドでは3月以降、都市部を中心にエアコンの売れ行きが急増している。ナグラトゥライ村に最も近い都市であるエタでは、電気がつくたびにエアコンの音が他のすべての音をかき消すほどだ。
「この町では大多数の家がエアコンを使っています」。22年間、エタの夏を取材してきたテレビ・ジャーナリストのデヴェシュ・シンは話す。高額な電気代の支払いを避けるため、多くの家庭は必要な電力を電力会社から盗電している。道路沿いの電線に、カティアと呼ばれるアルミ製のフックを取り付けて電気を盗むのだ。
ウッタルプラデーシュ州の各都市ではこの春、警察がカティアの取り締まりを連日実施した。「取り締まりは以前は日中だったので、夜間に電気を使い、朝起きたらまずカティアを外すことができていました。今年は、エアコンの前で寝ている午前2時から4時の間に警察がやってきました」とシンは言う。6月半ばまでに、エタでは150人が盗電で起訴されたが、町では依然としてエアコンの音が鳴り響いてい …
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