金持ち自慢も禁止、中国政府がライブ配信の規制強化で新規範
収益性の高いライブ配信ビジネスは、中国の新たな検閲の波における最新のターゲットとなった。 by Zeyi Yang2022.07.14
若い中国人女性であるゼンにとって、ティックトック(TikTok)の国内版「ドウイン(Douyin)」を1時間視聴することは、日課になっている。さまざまな動画やライブ配信の中でも、ゼンが特に気に入っているクリエイターが「弁護士ロンフェイ」だ。ロンフェイは毎日、900万人のフォロワーからの法律相談にライブで答えている。その多くは、厄介な離婚問題に女性がどうアプローチすべきかについてだ。
しかし今年5月、ロンフェイのアカウントは15日間停止されてしまった。フォロワーへのメッセージの中で彼女がほのめかしていたのは、ライブ配信中に発したある言葉がどうやらアカウント停止のきっかけになったらしいということだった。それを受けてファンは、「負のエネルギーを広げた」ためにロンフェイはアカウントを停止されたのではないかと考えている。この漠然とした表現は、中国政府からのメッセージに頻繁に登場するもので、今回のケースで言えばロンフェイのコンテンツが、結婚に対する国の考え方と一致していないというを意味する。
ゼン(特定を防ぐために名字での表記を希望)は、おかしいと感じた。「ロンフェイは今の基準と照らし合わせても、不合理なこともモラルに反することもしていないと思います。それどころか、彼女はみんなの助けになるようなことをしているはずです」。結局、ロンフェイのアカウントは6月には復活した。
中国では2016年にライブ配信がブレイクし、それ以来国民に人気の余暇の過ごし方の1つになっている。年間視聴者数は6億3500万人を誇り、トップクラスのライブ配信者は、電子商取引、音楽、ゲーム、コメディの分野で視聴者を動かし、数百万人の熱心なファンから巨額の利益を得ている。その結果、一流セレブ並みの影響力を持っている者も少なくない。
しかし、弁護士ロンフェイのような多くの配信者は、どこまでが許容範囲なのかを中国政府が決めようとする姿勢を強めていることに、頭を悩ませている。6月22日に中国の文化当局が発表した新しい政策文書「オンライン配信者の行動規範」は、国が配信者に期待する方針を指導するためのものだ。近年、政府に目をつけられないように活動してきたライブ配信者たちも、今や中国の検閲機関の総攻撃に直面している。
「行動規範」では、暴力や自傷行為から、宗教的な教えや富の誇示といった曖昧な概念まで、「オンライン動画コンテンツにすべきではない31のカテゴリー」が挙げられている。ガイドラインには、配信者の見た目に関するルールも含まれており、中国の指導者をからかうためにディープフェイクを使用することも禁止している。
「国全体、すべてのオンライン・プラットフォーム、あらゆるジャンルのオンライン配信者を網羅することを目的とした、上位統一の試みだと考えられます」と話すのは、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の博士候補生、ジンジー・グーだ。新たな行動規範は、これまでバラバラであったり、特定地域に限定されていたりした従来の規制に代わるもので、プラットフォームやマーケティング企業に対する他の規制を補完するものでもある。「(今回の規制では)俳優と同じように、オンライン配信者を独立した職業として扱っているのです」と、グーは説明する。
中国政府が、無視できないほど強力になった業界をコントロールしようとしているのは明らかだ。この1年、中国のトップライブ配信者の中には、脱税や政治的な表現による検閲を受けて罰金を科され、王座から転落した者もいる。「行動規範」で規制が明文化されたことで、将来的な政府のさらなる介入を許することになる。
「宇宙の果て」
今、中国で流行っている言葉がある。「最後は誰でもライブ配信でモノを売る」というものだ。弁護士、教師、タレントなど、あらゆる職種のプロフェッショナルたちが、通販番組のように商品プレゼンターとしてお金を稼ぐ配信者になりつつあることを揶揄したものだ。
「欧米人は、ライブ配信がショッピングの主流チャンネルだとは思っていないでしょうし、おそらくエンターテインメントの主流チャンネルだとも思っていないでしょう。でも中国では、ライブ配信は絶大な人気を集めています」とグーは話す。
元配信者のエン(偽名を希望)は、北京の家庭教師会社に勤務していた。何千時間もの英語レッスンをライブ配信し、一部はお金を払っている生徒に、その他は知名度を上げるために無料で一般公開していた。
エンの話では、会社がストリーマー講師を有名人にしたいと考えていた時期があったと言う。「上層部は、講師をスターとして宣伝したいと明確に考えていました。ハッシュタグやポスターでは、ファン用語のような表現を使うこともありました」。
しかし、この手の影響力には代償がある。中国の文化産業に対する規制は数十年にわたって厳しく、特に知名度の高い映画やテレビ番組についてはその傾向が強い。近年では、脱税や薬物使用などの違反が疑われ、一夜にしてトップ俳優が姿を消したこともある。しかしライブ配信の影響力が増すにつれ、当局も大ヒット映画のように扱い、それに応じて規制を強化する必要があることが明確になってきたのだ。
「ライブ配信に対する規制の仕方は、ニュース業界やあらゆるエンターテインメント業界、あるいはそれ以前のインターネット上の出来事に対する規制の仕方と何ら変わりありません。全体的な論理は同じです」とグーは説明する。
曖昧な領域
最新の行動規範では、「国家統一を危うくする」「中国共産党の指導を否定する」コンテンツを禁止している。しかしそれだけでなく、「世論における『ホットな話題』を意図的に作り出す」「大量の高級品、宝石、紙幣などの財産を見せる」ことも禁止している。
医療、金融、法律、教育など特定の専門分野のクリエイターがライブ配信を実施するには、適切な認定を受ける必要がある。その他には、比較的受け入れがたい規則もある。例えばある条項では、ライブ配信者の容姿が「公衆の美的嗜好と娯楽の習慣に適合する」ことを求めている。通常、中国におけるこの表現は、伝統的で保守的な服装を意味する。
「国民の美的嗜好が何であるかなんて、誰にもわかりませんよ」とエンは言う。「ストリーマーは不安になるでしょう。『何を着ればいいのか、どんな服装をすれば大衆が喜ぶののか』と」。
ゼンは、視聴者の見方も同じようなものだと言う。彼女からすれば、行動規範の規定の半分は、一般的に受け入れられている価値観を反映しているが、残りはあまりにも曖昧で、イデオロギーに左右されすぎているように見えるという。「動物虐待のコンテンツは誰が見ても明らかですが、『不適切な方法で先進的な社会主義文化を紹介する』となると、正直なところ何にでも当てはまります」とゼンは言う。
弁護士ロンフェイは、常に離婚の方法について話している。それだけで結婚や出産を奨励する中国文化を「不適切に表現」していることになるのだろうか。「視聴者からしても検閲のレベルは、必要かつ許容できると私が考えるレベルを超えています」とゼンは言う。
ストリーマーへの影響
この新しい規範自体は法律ではない。違反しても、ストリーマーが直接法的な問題に巻き込まれることはないだろう。しかしストリーマーは、プラットフォームや業界団体、自己検閲の圧力などを通じて、その影響を感じることだろう。
行動規範では、地方自治体が動画プラットフォームを定期的に監査し、違反した配信者の責任を追及するよう求めている。またプラットフォーム側は、「有害な」配信者が別の名前で戻ってきたり、別のプラットフォームに移行することができないようにする必要がある。また、関連する業界団体には、配信者の評価システムを構築し、「法律やモラルに反する行為」をした配信者のリストを定期的に発表するよう求めている。現在、中国芸能協会が隔年で更新しているリストがあるが、11月の最新版では、中国のトップ・インフルエンサー数名が追加されている。「非国民的」あるいは「あまりにも低俗」であるという理由からだ。リストに追加されたインフルエンサーは、すぐに公の場から姿を消した。
ライブ配信は、多くの人にとって実行可能なビジネスモデルとなった。それ以来、忍び寄る検閲にまつわる議論では、いかに反撃するかということよりも、いかにリスクを最小限に抑え、利益を最大化するかということに焦点を合わせるようになった。その結果、自己検閲が最も一般的な対策となっている
「ドウインは、もはや滑稽なレベルでの自己検閲が行われているプラットフォームです」と、ライフスタイル動画のクリエイターであるザンは言う。ザンは数百の単語(冒涜するような言葉や迷信から、製品の効果を誇張していると受け取られかねない医療専門用語まで)のスクリーンショットを送ってくれた。これらの単語は、マーケティング企業がクリエイターに対し、動画内で使わないように指示しているものだ。これらの単語を使うと、プラットフォーム側にアカウントを停止される危険性があると、クリエイターは聞かされている。
ザンにとっては、新しい規範の抜け道を見つけることが鍵となる。「この発表だけを頼りにしていると、動画を作る際、何もできないような気がしてきます」と彼は言う。「しかしこの業界で経験を積めば、抜け穴や、厳格に取り締まっていないルールを見極めることができるようになります」。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。