ついに動き出した
米「太陽地球工学」政策、
5カ年計画作成へ
米国政府はこのほど、「太陽地球工学」の研究に関する省庁間グループを立ち上げ、研究指針や基準の策定を始めた。気候介入の実現可能性、利点、およびリスクに関するさらなる研究と資金調達を促進するきっかけになるだろう。 by James Temple2022.07.26
ホワイトハウスは、気候変動対策として物議を醸す方法の1つである「太陽地球工学」の研究方法の指針と基準の策定を目的とした研究計画を作成中だ。
太陽地球工学の基本的な考え方は、より多くの熱を宇宙に放出して温暖化が進む地球を冷却することで、気候システムを意図的に微調整できる可能性があるというものだ。
初めて明らかになった今回の研究計画の作成の動きは、地球工学に関する研究に連邦政府が介入する初の取り組みだ。気候介入の実現可能性、利点、およびリスクに関するさらなる研究と資金調達を促進するきっかけになるだろう。また、連邦政府による研究計画の作成は、地球の温度が上昇する中で、地球工学が適切かつ重要な研究分野であるという認識を広めることにもつながるかもしれない。
太陽地球工学には、さまざまなアプローチがある。最も注目されているのは、飛行機や気球を使って成層圏に微粒子を散布する方法だ。過去の大規模な火山噴火の影響を再現する方法で、理論的には散布した微粒子によって温暖化を緩和するのに十分な量の太陽光を反射させる。また、特定の微粒子を放出することで、地球に熱を閉じ込める対流圏の上層に発生する巻雲を霧散させたり、海洋上の低い位置にある雲の反射率を高めたりする可能性を探る研究グループもある。
今年3月にバイデン大統領が署名した2022年度連邦歳出予算法は、ホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)に対して、米国航空宇宙局(NASA)、米国海洋大気庁(NOAA)、米国エネルギー省と連携して、気候介入に関する研究を調整する省庁間グループを立ち上げるよう指示。「公的資金による太陽地球工学研究の透明性、指針、およびリスク管理に関する指針を提供」する研究の枠組みを作成するよう求めている。具体的には、NOAAに対してOSTPによる5カ年計画の策定を支援するように指示。5カ年計画には特に、太陽地球工学の研究目標を定め、気候介入による潜在的な危険性の評価、研究を実施するために必要な連邦政府の投資レベルを評価することが含まれている。
地球工学は長い間、科学者の間でタブー視されてきた。そして、今後もタブー視すべきだと主張する人もいる。環境副作用の可能性や、地域によって非均一的な影響が及ぶのではないかとの懸念もある。また、このような強力なツールをどのように用いるのか、目指すべき世界の平均気温は何度なのかなどを誰が決断するのかといった、グローバル・ガバナンスに関する難しい問題に対処する方法も明らかではない。地球工学の可能性について話題にするだけで、気候変動の根本的な原因への対策がそれほど緊急ではないという間違ったシグナルを送る可能性があるとして、地球工学の実証実験や調査さえも危険すぎると考える人もいる。
しかし、気候変動の脅威が高まり、主要国が迅速な排出量削減を推進できない中、より多くの研究者、大学、および各国が、地球工学のアプローチが及ぼす可能性がある影響を真剣に研究している。一方、少数の著名な科学団体は、研究を進めるための基準の厳格化や研究費の増額、あるいはその両方を求める声を上げている。例えば、全米アカデミーズ(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)は昨年、米国は太陽地球工学研究プログラムを立ち上げ、今後5年間で1億ドルから2億ドルの初期投資を実施すべきだと勧告した。
地球工学研究の支持者らは、排出量の削減が最優先事項であり続けなければならないと強調する一方で、気候変動の危険性を有意に低減できる恐れがあることから、地球工学のアプローチの可能性を探るべきだと主張している。熱波、干ばつ、飢饉、山火事、その他の極端な現象がより一般的に、あるいはより深刻になるにつれて、この種の気候介入は、広範囲に及ぶ人的被害や生態学的大惨事を急速に緩和できる数少ない手段の1つになるかもしれない、と支持派は指摘する。
基準の作成
OSTPは声明で、2022年度連邦歳出予算法で求められている省庁間グループに作業部会を設置したと発表した。作業部会には、NOAA、NASA、米国エネルギー省など10の調査・研究機関の代表者が参加している。
作業部会は団体や個人から意見を募集してい …
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