英国のEU離脱で
低炭素社会に大打撃
EU第2の経済規模のある英国の離脱は、COP21パリ協定の実施を揺るがしかねない。 by Richard Martin2016.06.25
英国の有権者がEU離脱を選んだことが世界中の市場に衝撃を与えた。エネルギー分野も例外ではなく、政策立案者やクリーン・エネルギーの支持者、アナリストは、英国のEU離脱によりCOP21 パリ協定により炭素排出量を削減しようとするEUの努力を台無しとはまではいえないが、妨げになるとは見ている。
デービッド・キャメロン首相により、英国はEUのエネルギー政策と再生可能エネルギー支援のリーダーであり続けた。発電と送電、配電の支配による電力独占の廃止を含め、ここ10年のEU規模の重要なエネルギー政策は、英国の制作を部分的にモデルとしたものがあった。
もっとも、近年になって英国政府はソーラーパネルの屋上設置と大規模設置の双方に対する助成金を厳しく削減するなど、クリーン・エネルギー支援を転換しており、英国の再生可能エネルギー協会 (Renewable Energy Association) が今年のはじめに公開したレポートによれば「政府がEUの政策に介入することで、英国の国際的リーダーとしての立場は傷つけられ、成長率を遅らせており、法的拘束力のある2020年の再生可能エネルギー供給目標は(中略)達成できない見込みが強まっている」と述べた。EUの条約や協定による義務から解放された新たな英国政府は、180度転換した態度を継続できる。同国の2020年に向けた再生可能エネルギー目標は、多くの人が思うように木曜日の投票以前には既に疑わしい状況にあり、EUを離れることでこうした目標は到達できないだろう。
英国の送電会社であるナショナル・グリッドによる委託を受けたビビッド・エコノミクスによる3月のレポートによれば、EU離脱は英国にとって、エネルギーと気候に対する投資の不確実性の結果として2020年代に年間5億ポンド (約7億米ドル) の損失になり得る。
国連万人のための持続可能エネルギーのレイチェル・カイト代表は24日早朝、英国離脱の投票結果が明白になった後に「悲しい 」と一言ツイートした。
Weep. https://t.co/Q09E4W5C5z
— Rachel Kyte (@rkyte365) 2016年6月24日
現時点で、英国には世界最大かつ最先端の洋上風力発電産業がある。しかし、風力発電計画の多くはEUや大陸側の大規模な公益事業体による資金提供を受けており、英国のEU離脱後、こうした協定は破棄または縮小されると見られる。産業界の巨人ドイツのシーメンスは、風力タービン用の巨大な製造拠点 をイングランド東部のハルに建設中であり、英国の離脱に最も反対の声を上げていた。
最も重要なのは、離脱の結果、EUエネルギー市場(統合された欧州のエネルギー市場)の発展が疑わしくなることだ。
20年近くの間、EUは市場の統合や国際送電ラインの構築、他のEU加盟国にある発電企業規制緩和に向けて徐々に動いていた。大陸規模の送電網は、大量の再生可能エネルギーを制度下に統合する決定打となる。
スカンジナビア半島や北欧、英国の間に主要な高圧海底送電線を作ることは、本計画の重大要素だ。しかし欧州第2の経済規模があり、発電の観点からいえば第3のエネルギー市場でもあった英国なしでは、その進展は失速するだろう。
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クレジット | Photograph by Christopher Furlong | Getty |
- リチャード マーティン [Richard Martin]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのエネルギー担当上級編集者。『Coal Wars: The Future of Energy and The Fate of the Planet(石炭戦争:エネルギーの未来と地球の運命)』(2015年刊、未邦訳)の著者です。