「盛り」だけじゃない、顔加工アプリがもたらす新しい価値
自分の外見を手軽に変えられるティックトックやインスタグラムの美容フィルターは、自撮り写真を美しく「盛れる」だけではない。ユーザーによっては大きな価値を持つこともある。 by Elizabeth Anne Brown2022.07.07
大手ソーシャルメディアは、 ユーザーが「ジェンダーをいじる」ことのできる新しい美容フィルターを次々と投入している。例えば、ティックトック(TikTok)の「ビアデッド・キューティ(Bearded Cutie)」を使うと、太い眉毛とワイルドな髭が生えた顔になる。また、スナップチャット(Snapchat)の「マイ・ツイン(My Twin)」レンズの女性版では、肌が陶器のようにつるつるになり、派手で華やかなメイクがほどこされる。多くのユーザーにとって、こうしたフィルターは「お遊び」に過ぎず、流行が去ればすぐに忘れられてしまうものだ。だが中には、それらのアプリを何度も使って、ジェンダーが混在した自分の姿をじっと見つめる人たちもいる。突然、何かが現実化したように感じるのだ。
トランス・ジェンダーのアイデンティティやネットでの経験について調査しているミシガン大学のオリバー・ハイムソン助教授は、次のように語る。「トランスや、ジェンダー・ノンコンフォーミング(社会的に受容される性に従わない・準拠しない人)、ジェンダー・キュリアス(性別への関心が高い人)にとって、メイクに必要なお金や時間をかけることなく、また髭を生やす時間やホルモン、そして運も必要とせずにジェンダーをいろいろ試せる手段の1つが、(ソーシャルメディアの)フィルターなのです」。フィルターはアイデンティティを探るために重要で、広く使われているツールだとハイムソン助教授は説明する。
トランスの中には、フィルターのおかげでやっと「殻を破ることができた」と言う人もいる。「殻を破る」とは、トランスのコミュニティにおいて、生まれた時に与えられた性と自身が感じる性とが異なると自分自身で認める「通過儀礼」を意味する。「スナップチャットのガール・フィルターは、抑圧された10年から解放されるための、最後の一撃でした」。こう話すのは、シンシナティ出身のトランス女性であるジョジー(30代前半)だ。「鏡に映る自分よりも、自分らしい姿を発見しました。もう戻ることはできません」。
フィルターはまた、トランスの人が切望している、外見と自認している性のアイデンティティとが一致する多幸感も与えてくれる。肉体的な性別移行を考える際に、フィルターを役立てる人もいる。「私がもっとフェミニンな顔になりたいと思っていても、フェイスアップ(FaceApp)のフィルターは顔をあまり変える必要がないことを示してくれました」。シアトル出身のエッタ・レイナム(32歳)は言う。「眉毛と髭の状態を変えるだけで、自分の望む顔になれると示してくれたのです」。
こうしたフィルターを使用する際には、落とし穴もある。(フィルターを通した自分と同じようになるため、)美容整形や高度なメイク、ホルモン療法をもってしても、肉体的に不可能という「結果」が示されてしまうときがあるからだ。フィルターというテクノロジーが、トランスに失望感を味あわせたり、不安な気持ちにさせたりするのだ。しかし、ネットで過ごす時間が増えている昨今、フィルターのかかった姿が「リアルな」自分ではないと誰が言い切れるのだろうか?
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エリザベス・アン・ブラウンは、デンマーク・コペンハーゲンを拠点とする科学ジャーナリスト。
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- elizabeth.anne.brown [Elizabeth Anne Brown]米国版
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