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デフォルトは「歩行者が青」、ロンドンが新しい信号をテスト中
Oli Scarff/Getty Images
London is experimenting with traffic lights that put pedestrians first

デフォルトは「歩行者が青」、ロンドンが新しい信号をテスト中

ロンドンで実施されたテストでは、横断歩道のルールを車両優先から歩行者優先に単純に変更するだけで、交通の安全性が向上すると分かった。 by Rachael Revesz2022.07.05

歩行者にとって都市を歩くことは、ひどくストレスを感じる体験だ。横断歩道が歩行ルートの途中に立ちはだかり、駐車中の自動車が視界をさえぎり、縁石をうまくよけなければならない。都市は障害物レースのようだ。

英国の首都ロンドンの交通サービスを提供するロンドン交通局(TfL)は、こうした状況に気づき、最近、市内18カ所の横断歩道で新しいルールを試験的に導入した。歩行者が道路を横断するために「青信号の男性」マークが点灯するのを待つ代わりに、横断歩道の信号は最初から青信号にしてある。センサーが接近する車両を検知したときにだけ、信号は赤に変わるのだ。

この「歩行者優先」の取り組みは英国では初めての試みだが、9カ月にわたるテスト期間では有望なデータが集まったという。交通への影響はほとんどなく、すべての歩行者が節約できた時間は平均的な横断歩道で1日あたり合計1.3時間になった。歩行者が信号無視をしない可能性も13%高くなったという。

2020年には868人の歩行者が死亡または重傷を負った。ロンドンにおけるこうした現実的なリスクは規則の導入によって大幅に回避できる。死傷者の数は2019年の1350人から急激に減少したが、おそらく原因は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウンと自動車通勤の減少によるものだろう。しかしロンドンは、2019年に1人の歩行者も死亡しなかったオスロやヘルシンキに並ぶことを目指している。道路交通で人が死亡や負傷することをゼロにしようという世界各国が取り入れている交通安全哲学「ビジョン・ゼロ(Vision Zero)」を成功させるために、TfLは自転車専用レーンの導入、道路の車両通行止め、歩行者用インフラを構築することで、交通における自動車の優位性と速度を低下させている。例えば、TfLは2016~2020年に77カ所の横断歩道を新設または改良し、毎年1000カ所を超える横断歩道で信号のタイミングを点検している。

これは始まりに過ぎない。過去20年間、ロンドンでは歩行者体験の向上よりも、自動車交通との戦いに大きな労力を割いてきた。ほぼ20年前の2003年に、自動車に対して曜日ごとの時間帯によって異なる渋滞課金制度を導入した。それに続く排出規制により、汚染物質の排出が多い車両を市内から追い出し、2021年10月にはこうした車両の進入を禁止するゾーンを拡大している。規制の施行には1500台以上のカメラを利用し、交通の流れと管理状況をよりよく把握するためにCCTVセンサーを使用している。

歩行者用の空間を保護する取り組みは、高度なものや、長年にわたって積み重ねられてきたものはない。パンデミックの間、地方自治体は物理的な距離を保つために、歩行者と自動車を分離する道路上に設ける車止めの杭や、植木鉢を設置して道路を封鎖する緊急的な権限が与えられた(英国中のほとんどの歩道は、歩行者同士が2メートル離れるのに十分な広さがない)。その評価は、一部のコミュニティだけでなく、マスコミや5月に実施された地方選挙においても大きく分かれた。しかし、これらの新しい「交通量の少ない地域」は、交通関連の負傷者が50%減少しただけでなく、車の所有者の減少、路上犯罪の減少、遊びや散歩のためのより健康的な道路への変容にも関連しているという事実に異議を唱えるのは難しい。

地方政治はさておき、歩行者最優先の取り組みは勢いを増している。英国のハイウェイ・コード(Highway Code:すべての道路利用者向けの規則)が今年初めに更新され、道路における人々に注意を払う最大の責任は、道路に最大のリスクをもたらす人たち、つまり車両ドライバーが負うことになった。

ロンドンにおいて、TfLは歩行者優先の横断歩道の設置を拡大したいと考えている。テスト期間のデータでは、政治的リーダーシップの支援があれば、小さな変更が一般市民にとって街中をもっと歩きやすくするのに役立つことを示している。

レイチェル・レベスはスコットランドのエジンバラを拠点にするフリーのジャーナリスト。

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