「ノイマン型」の限界を超えるコンピューターはいつやってくるか?
35歳未満のイノベーターたちは、二次元半導体や光コンピューティングのような最新技術を現実にする研究に取り組んでいる。現在、私たちが使っているコンピュータはみな「ノイマン型コンピューター」だが、その限界が見えてきたと主張する声もある。 by Prineha Narang2022.11.04
100年もかからないうちに、コンピューティングは私たちの社会を変革させ、数え切れないほどのイノベーションを起こしてきた。今では、数十年前には考えられなかった性能を持つコンピューターをズボンのポケットに入れて持ち運んでいる。機械学習のシステムで周囲の状況を解析して、車を運転させることもできる。そして、現実世界を驚異の精度で再現することも可能だ。そうした再現モデルは、原子炉の設計や温暖化ガス排出の多種多様な想定に使用できる。探査機を9年かけて冥王星に送り、高速で接近して一瞬で星を通過する計画にも、そうしたモデルが採用された。
- この記事はマガジン「世界を変えるU35イノベーター2022年版」に収録されています。 マガジンの紹介
このような能力を基本的に支えているのは、どんどん進化するコンピューティング機器(コンピューターチップの心臓部にあるトランジスターなどの部品のことだ)を構築する人間の能力である。しかしトランジスターの能力は、従来の「ノイマン型アーキテクチャー」とともに限界に近づいている。プロセッサーとメモリーを別々に備えたノイマン型は、コンピューターの構築に採用されてきた。今後もコンピューターの性能やエネルギー効率を向上させたいのであれば、そろそろ新しいアイデアが出てこなくてはならない。
もちろん、現在もたくさんのアイデアがある。少し例を挙げただけでも、量子コンピューターや二次元素材でつくられた光電子部品、アナログ回路などがある。こうした技術の多くは、数十年とは言えないまでも長年研究の対象となっている。
有望なレベルの成熟度を示している技術もある。例えば、私の研究や「35歳未満のイノベーター」を受賞したカーネギーメロン大学のシュー・チャンの研究では、二次元の半導体を通信分野の光電子機器に採用している。こうした機器は最近、ケイ素とIII-V族半導体(周期表のIII族元素とV族元素が入った複合物)を用いた従来型のスイッチの性能を上回り始めた。
早い段階で採用されながら二値電子回路に取って代わられた光コンピューティングの技術でも、最近進展が見られる。私は、光を「作動流体」として使用するコンピューターが構築できる可能性に魅せられている。既存のチップにおける電子と同じように光子を動かす仕組みである。
そうした技術はすでに実現している。シリコン光チップが高いエネルギー効率をもたらし、従来のGPUアーキテクチャーの遅延問題の克服に一役買っているのだ。こうしたチップを使えば、深層学習モデルの訓練に必要な時間を短縮することができ、次世代の最新AI(人工知能)への道が開かれる。35歳未満のイノベーターの1人であるリエクセンテクノロジー(Reexen Technology)のホンジェ・リュウのように、新たな低電力チップの設計にフォトニクスを取り入れられる可能性もある。
長い目で見ると、そうした光子回路の力で、世間で広く認識されているコンピューティングの限界に対処するだけでなく、超越することもできるかもしれない。光情報処理の理論的研究では、光を熱に、熱を光に変換できる可能性が示されている。そこから、光を全面的に利用したエネルギー貯蔵(本質的に光子でできた電池)や、新しいコンピューティング・アーキテクチャーの驚くべき可能性が開かれる。
こうした研究の多くはまだ、主に学術界にとどまっている。しかしながら、大規模で完全に統合されたシステムの構築へと徐々に向かっているのも事実だ。こうしたアイデアを完全なコンピューティング・システムに統合する可能性について考え続けることができれば、近い将来、従来型のチップをさらに発展させ、さまざまな形態のコンピューティングに進展させることができるだろう。
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プリネハ・ナランは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の物理学科教授(2018年に「35歳未満のイノベーター」に選出)。
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