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レアアース産業に照準、中国系ネット工作活動が激化
Isaac Brekken/The New York Times via Redux
A pro-China online influence campaign is targeting the rare-earths industry

レアアース産業に照準、中国系ネット工作活動が激化

中国はレアアースにおけるほぼ独占状態を維持するため、西側諸国と戦い続けている。中国工作員は、ネットで偽情報を流布して欧米のレアアース企業の弱体化を試みている。 by Patrick Howell O'Neill2022.07.06

中国の政治的な利益を促進するグループが仕掛けるネットのインフルエンス・キャンペーン(誘導工作)は、レアアース(希土類元素)の採掘と処理をする欧米諸国の企業を標的にしている——。こう報告するのは、サイバーセキュリティ企業マディアント(Mandiant)だ。フェイスブック・グループとマイクロ・ターゲティングの手法を用いたこの工作活動は、西側企業に対する環境活動家の抗議行動を煽ることを目的としている。

活動はコードネーム「ドラゴンブリッジ(Dragonbridge)」と呼ばれるネット・グループによるもので、新型コロナウイルス感染症の発生源が米国だと主張する活動も展開している。豊富な希少資源による支配力を誇示する中国と、対立する欧米諸国との間の戦略的な戦いの一部に位置づけることができるドラゴンブリッジの今回の活動は、ここ数週間で激しさを増している。

「私たちは、インフルエンス・オペレーション(誘導作戦)のようなツールが重要産業に対して使われる可能性が、将来的には高まるだろうと考えています」とマディアントのジョン・ハルトクイスト諜報部長は言う。「米中間の争いが変化するなかで、その性質がより攻撃的なものになっていくのかもしれません」。

ドラゴンブリッジの活動は、インフルエンス・キャンペーンが簡単なものではないことも証明している。欧米諸国の企業に、ネガティブな注目を集めようとするドラゴンブリッジの企みの大半が失敗しているからだ。グーグルの脅威分析グループを指揮するシェーン・ハントリーは、2019年以来、ドラゴンブリッジを監視している。ハントリーは以前、自身のチームはインフルエンス・オペレーションに「積極的な」対応をしているが、「これだけ多大な労力を注ぎ込みながら、インフルエンス・オペレーションを仕掛けているチャンネルが実際の閲覧者から得られているエンゲージメントはあまりにも少ない。本当に驚くべきことです」とツイートしている

ドラゴンブリッジのアカウントは、新型コロナウイルスの発生源は米国という主張から、オーストラリアの採掘会社ライナス(Lynas)の批判まで、人々を親中国に向かわせるさまざまなインフルエンス・ナラティブ(物語)を投稿している。

セリウムやネオジムといったレアアースは、スマートフォン、戦闘機、電動移動手段、風力タービンなど、ほぼあらゆるハイテク製品の原材料となる。

中国はここ数年でレアアース市場を支配するようになり、2017年までには、世界のレアアース供給量の80%以上を占める存在になった。中国政府は数十年にわたってレアアースの研究と採掘にリソースを注ぎ込み、巨大国営企業6社を設立するとともに、環境規制の緩和によって低コストかつ汚染率の高い方法で資源を採掘できるようにした。それがこの独占状態を実現したのだ。1990年代には、中国はレアアースの輸出量を急激に増加させ、世界のライバルたちを次々と破綻に追い込むという突然の攻撃を仕掛けた。中国におけるレアアース産業のさらなる発展は、中国政府主導の「中国製造2025」計画における戦略的な目標となっている。

中国は2010年に尖閣諸島周辺で発生した日本の巡視船と中国漁船との衝突事件を受けてレアアースの対日輸出を禁止するなど、レアアース産業における支配力を何度も誇示してきた。中国国営メディアは、中国は米国に対しても同じことができると警告している。

米国をはじめとする西側諸国は、中国によるレアアースの独占状態が自国にとって致命的な弱点だと見なしている。その結果、欧米諸国はレアアースの発見、採掘、処理を強化するため、この数年で数十億ドルを注ぎ込んできた。

2022年6月初旬、カナダの採掘会社アッピア(Appia)は、カナダ中西部のサスカチュワン州で新しい資源を発見したと発表。数週間後には米国企業のUSAレアアース(USA Rare Earth)がオクラホマ州に新しい処理施設を建設すると発表した。

中国以外では最大のレアアース企業であるオーストラリアの採掘会社ライナス(Lynas)と米軍が、テキサス州に処理工場を建設する契約を結んだ直後の2021年、ドラゴンブリッジはインフルエンス・キャンペーンを展開した。

マディアント提供によるキャプチャー画像から、ドラゴンブリッジ関連のアカウントがマイクロ・ターゲティングの手法を用いたインフルエンス・キャンペーンをすばやく展開し始める様子が分かる。テキサス出身を名乗るドラゴンブリッジのメンバーたちは、フェイスブックですでに活動している反ライナス・グループに投稿し、採掘と処理の環境への影響に関する懸念を訴えた。 このグループは新型コロナウイルスのパンデミックが始まった当初にも、同じ戦術で抗議行動を扇動しようとした。

レアアースを取り巻く環境への懸念は、現実的なものだ。事実、中国がレアアース産業における優位性を支えている理由の1つは、緩い環境規制にある。中国は地元地域の反発を受け、現在、レアアース関連事業の一部をアフリカへ移転させている。

レアアースの採掘活動が環境を害する可能性があるとはいえ、レアアースは先進的なバッテーリーや電動自動車といった最先端のクリーン・テクノロジーに不可欠であるため、世界的な二酸化炭素排出目標の達成や気候変動を食い止めるために必要不可欠な存在として広く認識されている。この現実によって、難しい決断とのトレードオフを強いられることは避けられないだろう。

「レアアースは、米中両国にとって非常に重要な競争分野です」とハルトクイスト諜報部長は言う。「レアアース産業は本質的に、今後、経済的、政治的状況の緊張が高まるなかで、より多くの産業が定期的にインフルエンス・オペレーションの標的にされる将来に向けた、炭鉱のカナリアなのです」。

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パトリック・ハウエル・オニール [Patrick Howell O'Neill]米国版 サイバーセキュリティ担当記者
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