米国には現在、ガソリン車用の給油スタンドが15万カ所ほどある。米国では完全電気自動車(EV)の数が急増しており、新車販売台数は2012年にはわずか年間1万台程度だったが、2021年には40万台に上っている。だが、バッテリー駆動車を急速充電できる直流(DC)充電ステーションの施設数はわずか6000カ所しかない(日本版編注:充電ステーションの総数は約4万7000カ所)。
米国の充電ステーションの地図を見れば、「充電砂漠地帯」がいくつも存在することがすぐに分かる。だが新車販売に占める電気自動車(EV)の割合は3%未満に過ぎないため、特におかしなことではない。大都市では急速充電器の数が増えているとは言え、EVの大量流入に対応するには十分ではない。都市部以外に目を向けると、こうした充電器は州間高速道路に沿って配置されており、電気自動車が安全に走行できるようになっている。しかしながら、都市部以外では充電器はほとんど設置されていない。EVステーションには、ガソリンスタンドにはない問題が存在する。「最高の充電速度を誇るテスラのスーパーチャージャーでさえ、数百マイル分充電するのに15分かかります」。カーネギーメロン大学の自動車電動化グループ(Vehicle Electrification Group)を統括するジェレミー・ミチャレク教授はそう語る。
国全体が電気自動車へと移行する上で、充電インフラの整備はまだまだ追い付いていない、と教授は言う。明るい面もある。全国民が一気にEVに移行するわけではないため、対処する時間はまだ残されているのだ。早くからEVを導入したオーナーの大部分は、自宅の車庫や駐車場で充電器を使える状態にあった。こうした人々は朝起きたら車が完全に充電されており、街を出て遠出する場合に限り、公共の充電器を使えばいい。しかし、EVの導入が進んでいく中、今あるインフラだけでは対応しきれなくなるだろう。 そのためミチャレク教授は、通行量の多い幹線道路の休憩所の充電器の数を増やすことを優先すべきだと指摘する。特に、夏季休暇の旅行でEVの使用が増える今、それが必要なのだという。
「EVの導入が進む中、ピーク需要を満たすほどの充電器がなければ、ガソリンスタンドでは見られないような待機時間が生じるでしょう」。
EVの導入を検討する米国人は増えており、「充電の死角」問題は深刻化すると予想される。賃貸住宅に住む人にとって、家庭用充電器を設置することは選択肢になり得ない。そのため、必要な際に公共の充電ステーションを利用できる確信が得られるまでは、電気自動車に完全に切り替えるわけにはいかないだろう。EVしか持たない家庭が増える中、必要な場所(行きたい場所)にすべて行けるようになることが非常に重要になってくる。
バイデン大統領は全国に50万台の充電器(ステーションの数ではなく、充電器の数)を設置する目標を掲げているが、2021年11月に成立したインフラ法案では、目標のために75億ドルの予算が割かれた。ミチャレク教授は最良のシナリオとして、官民の協力によって、しっかりとした全国的な充電網が築かれることを想定している。バイデン政権は、都市部以外にもあまねく充電器を設置することを約束している。だが、国内各地に充電ステーションを設置している業者にとっては、大都市や通行量の多い道路に設置する誘因が大きくなる。結局のところ、エレクトリファイ・アメリカ(Electrify America)やEVゴー(EVgo)、チャージポイント(ChargePoint)といった企業は、ユーザーの利用分についてキロワット時単位で料金を徴収しているのだ。
EVの新車の大部分は完全充電状態で最低でも250マイル(約402キロメートル)走ることになっており、その距離は今後も伸び続けるだろう。充電なしで走行できる距離が伸びるほど、充電ステーションが空くのをやきもきしながら待つドライバーの数は減ることになる。「ですが、誤解してはいけません」と教授は言う。「電気自動車の国」には大量の充電器が必要なのだ。それもすぐに必要だ。