大手スパイウェア企業「NSO」が買収協議、業界の終わりの始まりか
ハッキング業界でその名を轟かせたイスラエル企業「NSOグループ」の買収協議が進んでいる。ハッキング業界に対する風当たりはここ数年で強くなっているが、世界的な需要は高まっており、NSOグループの解体で業界がどう動くか注目だ。 by Patrick Howell O'Neill2022.06.29
世界で最も悪名高いハッキング企業であるNSOグループが、まもなく消滅するかもしれない。現在も米国による制裁措置に揺れるこのイスラエル企業をめぐって、米国の軍事請負企業であるL3ハリスによる買収の可能性が取り沙汰されている。
取引はまだ確定にはほど遠い状態だ。ホワイトハウスと米国諜報機関の両者からは相当な反対がある。しかし、もし成立すれば、NSOグループは解体され、1つの時代が終わることになるだろう。NSOグループと同社の持つテクノロジーは、L3ハリス内の一部門に取り込まれることになると考えられる。L3ハリスにはすでに「トレンチャント(Trenchant)」と呼ばれる独自の攻撃的サイバー部門があり、同業界では世界的にも特に洗練され、成功している企業の1つへと密かに成長してきた。主として、賢明な国際的買収戦略のおかげである。
だが、この取引がどうなるにしろ、現在世界のハッキング業界で起きている変化は、どんな企業の規模をもはるかに凌ぐものだ。
サイバーは空白地帯を嫌う
ハッキング業界は、1年前と現在とで様変わりしている。
2つの大きな出来事が、状況を一変させたのだ。米国は2021年末、政府顧客がNSOグループのスパイウェア「ペガサス(Pegasus)」を使い、世界中のジャーナリストや人権活動家、政府関係者を「悪意を持って標的にしている」と判断し、同社に対し制裁を加えた。
スパイウェアの悪用が世界的に問題視される中、イスラエルの防衛省は数日のうちに米国の制裁措置に追随し、輸出許可を厳しく制限。同国で急成長していたハッキング産業は顧客の大半をほぼ一夜にして失う結果となった。イスラエルのハッキング企業が取引できる国の数は100カ国以上から37カ国に減少し、西欧諸国、米国、カナダ、英国、オーストラリア、日本、インドなどに限られるようになった。
依然として巨大かつ豊かな市場であることに変わりないが、ラテンアメリカ、アフリカ、東欧、アジアなど、それまで富裕層の顧客や購買意欲の高い顧客に最先端の監視ツールを販売し、イスラエルのサイバー企業が大儲けしてきた多くの国とは取引ができなくなっている。これらはまた、NSOグループが「ペガサス」を悪用した権威主義的な政権に強力なハッキング・ツールを販売していたことが発覚し、何度も問題になっていた国々でもある。NSOグループの幹部は、悪用を理由とし、8件の「ペガサス」の契約を打ち切ったと述べている。
イスラエル防衛省のライセンス制限により、 …
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