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「サル痘」感染拡大でまた陰謀論、同性愛嫌悪の誤情報も拡散
Pablo Blazquez Dominguez/Getty Images
Homophobic misinformation is making it harder to contain the spread of monkeypox

「サル痘」感染拡大でまた陰謀論、同性愛嫌悪の誤情報も拡散

欧米を中心にサル痘の感染者が増える中、同性愛者の間でのみ感染が広がるという偏見に基づく誤情報が広まっている。誤情報は感染状況に関する正確な情報の把握を困難にする上に、人々への正しい理解を促す上でも障害となっている。 by Rhiannon Williams2022.06.20

欧米を中心に感染が拡大している「サル痘」をめぐって、ソーシャルメディア上で同性愛嫌悪を助長する誤情報が拡散されている。MITテクノロジーレビューが外部に委託した調査によると、こうした誤情報がサル痘の感染拡大抑制の取り組みを妨げていることがわかった。

6月17日時点において、全世界で2093人のサル痘ウイルス感染者の確認が報告されている。世界保健機関(WHO)によると、これまでのところ、主に男性同士での性交渉を持つ男性の間で症例が確認されているという。今回の流行の中心となっているWHOの欧州地域事務局長は先週、サル痘を封じ込めるために各当局が一層の努力をする必要があると警鐘を鳴らしている。

MITテクノロジーレビューの依頼によってデジタルヘイト対抗センター(CCDH:Center for Countering Digital Hate)が実施した調査によると、主要なソーシャルメディア上で拡散され、しばしば同性愛嫌悪的な内容を含む誤った言説が、こうした取り組みの妨げとなっているという。誤った主張は、サル痘が誰でも感染する可能性がある病気であるということを世間に納得させる妨げとなり、感染が疑われた場合に報告を躊躇させる原因ともなるものだ。

誤情報の一部は、おなじみのパンデミック陰謀論と重なるものもある。ビル・ゲイツや「グローバル・エリート」を標的としたり、ウイルスが研究所で開発されたものだと主張したりといった類のものだ。しかし、誤情報の多くは直接的に同性愛嫌悪を煽り、感染拡大の非難の矛先をLGBTQ+コミュニティに向けようとするものだ。ツイッター投稿の中には、反LGBTQ+の言動が違法とされる国がサル痘感染者が最も多い地域であると主張するものや、ウイルスを「神による報復」と呼ぶものまである。ジョージア州選出の下院議員、マージョリー・テイラー・グリーンは先月、ツイッターで公開された動画の中で、「サル痘は実際には同性同士の性行為によってしか感染しない」との誤った主張をしている。

フェイスブックで何千回も「いいね!」されたサル痘に関する記事への同性愛嫌悪的コメントがネット上で閲覧可能なままとなっており、中でも数百件もの不快な反応を呼んだある記事は、テレグラム経由で4万回以上もシェアされている。

112万人が登録するユーチューブ・チャンネルのある動画は、サル痘に感染しない方法として「ゲイの乱交パーティに参加しない、げっ歯類に噛まれない、プレーリードッグをペットとして飼わない」といった誤った主張を展開している。この動画は17万8000回以上視聴されている。29万4000人がチャンネル登録している別の動画では、女性は「他の男性と接触している可能性の高い男性と接触する」ことでサル痘に感染すると主張しており、こちらは3万回近く視聴されている。フェイスブック、ツイッター、ユーチューブはいずれも、本記事の掲載までに本誌からのコメント要請には応じなかった。

このような偏見は、自らの性生活について触れられたくない感染者が症状を訴えにくいという事態を生み出し、新規感染者を追跡したり感染状況を効果的にコントロールしたりすることを困難にしている。

実際には、サル痘ウイルスは誰でも感染する可能性があり、人の性的アイデンティティや性的活動とは関係がない。男性同士で性行為をする男性のみに感染するという誤情報が、人々のサル痘への認識を実際よりも感染や拡大のリスクが低いものだと信じ込ませてしまう。そう指摘するのは、英国イースト・アングリア大学で公衆衛生上の脅威のモデル化に取り組む、ジュリー・ブレイナード上級研究員だ。「多くの人が『自分には関係ない』と思うことでしょう」(ブレイナード上級研究員)。

サル痘がどのように感染するかの全容や、現在の感染経路がまだはっきりしないことが、状況を悪化させている。サル痘ウイルスは感染者や感染動物との濃厚接触によって感染することは分かっているが、WHOはヒトの精液中でもウイルスが確認されたとの報告を精査中であると発表している。それが事実であれば、性行為で感染する可能性も考えられるだろう。しかしこれまでのところ、サル痘が性感染症のように作用する証拠となるような後続のデータは得られていない。また、どの動物がサル痘の自然宿主(自然界でウイルスを保持している宿主)であるかも現段階では不明だ(WHOはげっ歯類ではないかと推測している)。

今回の流行が、具体的にどこから始まったかは定かではないが、WHOは、サル痘ウイルスが常在している西アフリカや中央アフリカの一部の国以外については、スペインとベルギーで行われた2件のパーティをきっかけに、主に男同士で性交渉を持つ男性の間で人から人への感染が広がり始めたと見ている。典型的なサル痘の症状は、リンパ節の腫脹に続いて、顔・手・足などに病変が発生するが、今回の流行における感染者の多くは、病変が少なく、手・肛門・口・性器に発生している。この違いは、接触方法の違いに関係していると考えられる。

サル痘をめぐる誤情報は、社会にもともと存在する同性愛嫌悪に付け込んだものが多くある。そう指摘するのは、ハーバード大学のケレツォ・マコファネ客員研究員だ。誤情報を拡散するような人は、男性同士の性交渉に対して固執した意見を持っている場合が多い、とマコファネ客員研究員は説明する。

マコファネ客員研究員によると、男性同士で性行為をする男性たちに向けたコミュニティベースの組織は、彼らを中傷することなく正確な情報を伝えるという点でうまく機能しており、自身やパートナーの体調面での変化に気づき、必要であれば助けを求めることを促してきたという。

ゲイの出会い系アプリ「グラインダー(Grindr)」に掲載されている医療機関やサル痘の情報へとユーザーを案内する広告も、幅広い層に広まっているようだ。「ゲイの間では、その他の人々よりも(サル痘についての)認知度は高いのではと思います」。

ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のデレク・ウォルシュ教授(微生物学・免疫学)は、人類はサル痘の脅威について深刻に考えるべきだが、今すぐパニックになる必要はないと言う。

「サル痘の広まり方は、新型コロナウイルス感染症の大流行のように広範囲に広がる可能性は低く、有効なワクチンもすでに存在します。私たちはとにかく感染しないよう用心しつつも、感染者に偏見の目を向けないよう注意しなければなりません」。

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リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。
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