困難な航空産業の排出量削減、目標達成は「新燃料」が頼り
航空業界が排出する温室効果ガスは世界全体の排出量のおよそ3%を占めている。パリ協定の目標を達成するには、航空業界にも相当の努力が必要だ。目標を達成するには、研究段階の新燃料に大きく頼らなければならない。 by Casey Crownhart2022.06.14
航空機からの二酸化炭素排出の削減は困難なものになりそうだが、不可能ではない。十分な資金と政策支援、代替燃料があれば、航空産業は2050年までの気候変動抑制目標の達成に寄与できるだけの進歩を遂げられると、新たな報告書は伝えている。
現在、航空産業は世界全体の温室効果ガス排出の約3%を占めている。2050年までに実質ゼロ排出を達成すると誓約した航空会社や業界団体もあるが、このような計画は目標達成までの方法の詳細が欠落していることが多い。
非営利研究団体の国際クリーン交通委員会(ICCT:International Council on Clean Transportation)が公表した新たな報告書は、パリ協定で定めた目標である産業革命前の水準から2℃未満の地球温暖化に抑えるために必要な排出ガス削減の割当量を、航空産業が満たすことを可能にする道筋を描く。目標達成には、航空産業内での迅速な行動と、産業規模ではまだ実現していない代替燃料のようなテクノロジーに対する大幅な政策支援が必要だ。
航空産業は脱炭素化が難しいことで知られる業界だ。正確な運航と安全上の厳しい要求事項が、利用可能なテクノロジーを制限する。器材の耐用年数は長いので、いま建造中の航空機は2050年になっても飛び続ける。したがって、将来何十年にもわたって排出量を削減できるほど急速な技術進歩が必要になる。
「航空産業を脱炭素化したいなら、今すぐ着手しなければなりません」。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン建築環境学部のリネット・ドレイ主席研究員は言う。
温暖化を2℃未満に抑えるのに十分なほど排出量を低く保つということは、2050年の航空産業の年間排出量を現在予測されている水準の約半分に削減することを意味する。この先の20〜30年で急速な成長が見込まれている産業にとっては困難な課題だ。航空産業が目標を達成するには、排出量を2030年までにピークアウトさせる必要があると、報告書の著者の一人でICCTの上級航空研究員のブランドン・グレーバーは言う。さらに温暖化を1.75℃に抑えるには、2025年までに排出量を減少に転じさせる必要がある。
ICCTの分析は、排出量削減の約60%は低炭素燃料によって達成されると予測している。
だが、新たな燃料がそのような影響力を持つにはまだ長い道のりが待っている。代替ジェット燃料の供給量は2020年時点で燃料全体の約0.05%に過ぎない。2018年の数値から判断すると、非化石燃料の丸1年分の供給量では世界全体の航空産業をおよそ10分間しか動かせないのだ。
2050年に要求を満たすには、最も保守的な推計でも、代替燃料の供給量は2020年の水準から約3000倍に成長する必要がある。
現在生産されている少量の商用代替燃料の多くは、廃棄される脂肪分、油脂、グリースから作られる。だがこのような廃油の供給量は限られているので、もっと多くの燃料を確保しようとすれば他の供給源に頼らざるを得ない。
他のバイオ燃料は一定の役割も果たしているが、排出量削減に対するバイオ燃料の実際の影響は供給源によって大きく異なると、国際エネルギー機関(IEA)の航空アナリスト、プラビーン・ベインズは指摘する。また農業廃棄物のようなバイオマス源も世界中の航空機を飛ばすには少なすぎる。
したがって航空産業の代替燃料も合成ケロシンのようなテクノロジーが頼りだ。ICCT推計では代替燃料源の少なくとも半分はこの技術で作られるもので、電気を使って二酸化炭素を燃料に転換し、航空機で燃やせるようにする。プロセスの一部は現在でも工業的に実施されているが、このテクノロジーと将来のコストについては大きな疑問がある。
2050年までに温暖化を2℃未満に抑えるために必要な残りの排出量削減を達成するには、航空会社は技術的な効率(例えば1マイルあたりの燃料消費量)と経営効率(満席率)の両方を改善する必要がある。また旅行の頻度や距離が減ったり、高速列車など他の交通手段に移行したりして、需要の鈍化を迫られる可能性が高い。
「膨大な作業が必要になりますが、希望のない目標であり、何も起きる見込みはないなどと考えてほしくはありません」とグレーバー研究員は言う。「私たちは今すぐ行動しなければなりません」。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。