4年前、英国の田舎にある小さな道路で、車の中に座っていたアレックス・ケンダルはハンドルから手を離した。数台の安価なカメラと巨大なニューラル・ネットワークを搭載したその車は、道路の端に向かって進んだ。すると、ケンダルは数秒間ハンドルを握り、進行方向を修正した。車が再び道を逸れたときも、ケンダルはそれを修正した。ケンダルによると、その車は20分足らずで自力で道路を走行できるようになったという。
試行錯誤の末にニューラル・ネットワークを訓練する「強化学習」と呼ばれる人工知能(AI)の手法を利用し、実際の道路でゼロから車に運転を教えたのは、これが初めてのことだった。この試みは新たな道へと進む小さな一歩であった。新世代のスタートアップが、日常生活で無人乗用車を実現するための突破口になる可能性があると考える道である。
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強化学習は、超人的な腕前で囲碁やビデオゲームをプレイできるコンピューター・プログラムの作成において大きな成功を収めてきた。今では核融合炉の制御にまで利用されている。しかし、運転は複雑すぎる技術だと考えられていた。「私たちは笑いものにされました」と、英国に拠点を置く無人乗用車のスタートアップ、ウェイヴ(Wayve)の創業者兼最高経営責任者(CEO)であるケンダルは語る。
ウェイヴは現在、ラッシュアワーの時間帯のロンドンで自社の自動車を訓練している。同社は昨年、ロンドンの街中で訓練した車を、追加訓練なしで、ケンブリッジ(英国)、コヴェントリー、リーズ、リヴァプール、マンチェスターの5都市で走行させられることを示した。それは、クルーズ(Cruise)やウェイモ(Waymo)といった自律走行車業界のリーダー企業がなかなか実現できずにいたことであった。ウェイヴは5月にマイクロソフトと提携し、同社のニューラル・ネットワークをマイクロソフトのクラウドサービスであるアジュール(Azure)のスーパーコンピューター上で訓練すると発表した。
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投資家たちはこれまでに、自律走行する自動車の開発に1000億ドル以上をつぎ込んできた。これは、米国航空宇宙局(NASA)が人類を月に到達させるために費やした費用の3分の1にあたる額だ。しかし、15年の開発期間と途方もない距離の走行試験にもかかわらず、自動運転技術は試験段階から進展していない。「膨大な額の費用が使われたのに、非常に限定された成果しか得られていません」とケンダルCEOは言う。
ウェイヴをはじめ、米国のワービ(Waabi)やゴースト(Ghost)、イスラエルのオートブレインズ(Autobrains)といった無人乗用車のスタートアップがAIに全力を注いでいるのは、それが理由だ。「自動走行車(AV)2.0」と自称するこれらの企業は、よりスマートかつ安価な技術で、現在の市場をリードする企業を追い抜けると考えている。
誇大広告マシン
ウェイヴは、100の異なる都市に無人乗用車を配備する最初の企業になることを望んでいる。しかし、それは自身が生み出した理想を長年にわたり信奉し続けてきた業界による、さらなる誇大広告にすぎないのだろうか。
「この分野では過剰な宣伝があまりにも多すぎます」と、ウーバーで自動運転チームを4年間率いた後、2021年にワービを設立したラケル・ウルタスンCEOは語る。「そもそも、この課題がいかに難しいかという認識も不足しています。私は自動運転で主流となっている手法では、自律走行車を安全に利用するために必要な水準に到達できないと思います」。
現在主流となっている手法の起源は、少なくとも2007年、使われなくなった米空軍基地内の小さな模擬市街地内で、6つの研究者チームがロボット車両を走行させた「国防先端研究計画局(DARPA)アーバン・チャレンジ」まで遡る。
ウェイモやクルーズは、このイベントでの成功を受 …