遺伝子ドライブによる
ネズミの根絶は、
自然保護といえるのか?
遺伝子編集でメスのネズミを根絶する「ミッキーしかいない世界」は、固有種を外来種から守る自然保護といえるのだろうか。それとも自然保護の名を借りた根絶計画に過ぎないのだろうか。 by Antonio Regalado2017.02.13
米国の環境保護団体と共同研究する科学者によると、超進化テクノロジー「遺伝子ドライブ」を哺乳類に適用する準備が初めて整い、海鳥を補食する外来種のネズミを、影響の少ない離れ島で根絶できるようになった。
「遺伝子ドライブ」テクノロジー(DNAの継承に偏りを生じさせ、世代を重ねるごとに野生動物の遺伝子を改変し、種ごと絶滅させられるほど非常に強力な手法)は従来、昆虫と酵母菌で実証されただけだった。
現在、オーストラリアとテキサス州のふたつの科学者チームがイエネズミの一種であるハツカネズミの遺伝子を操作した、と表明している。改変された遺伝子を持つネズミを自然界の母集団へ放つと、改変された遺伝子が拡散し、種ごと形質を変えたり、絶命させたりできるのだ。ただし実験はまだ検証段階で、遺伝子を改変されたネズミが生まれてから2カ月しかたっていない。
哺乳類に遺伝子ドライブを導入する試みは、攻勢(hard-charging)の保護で有名なアイランド・コンサベーション(カリフォルニア州サンタクルーズ)との共同事業だ。アイランド・コンサベーションのモットーは「絶滅を阻止する」ことで、絶滅の危機に瀕した海鳥を救うために、小さな島々に殺鼠剤を散布することを専門にしている。
だが、大きな島だったり、ネズミが大量発生したりしていると殺鼠剤では効果がない。そのためアイランド・コンサベーションは、外来種のネズミに荒らされている数千の島では、遺伝子ドライブが「変化を作り出すテクノロジー」となりえると考えている。アイランド・コンサベーションの計画では、政府の許可さえあれば、遺伝子ドライブ実証のため、年間約700万ドルを費やし、大陸から遠く離れた孤島で最初の実験をするつもりだ。カール・キャンベル・プログラム・ディレクターは「私たちは何か本当に別格な方法を探していたのです」という。
アイランド・コンサベーションは、遺伝子ドライブによる「ドーターレス(daughterless:メスを生まない)」ネズミ、つまりオスだけを生む種を作り出す研究を進めているとキャンベル・プログラム・ディレクターはいう。性別偏重効果によって島のメスのネズミの数を減らせば、やがてネズミはいなくなるだろう。
遺伝子を改変されたネズミは「シンセチック保護(合成生物を使った保護)」と呼ばれる概念の初期段階に過ぎず、広い意味では、遺伝子工学によって絶滅した動物を生き返らせたり、絶滅の危機に瀕した種を遺伝子的に再び増殖させたり、あるいは固有種の動植物を襲う外来種を撲滅させたりすることを含む。
ネズミは、害獣リストの上位にある。難破船や船員と共に世界中に広がったネズミは、大洋島(歴史上、長い間大陸などの陸地と接していない島々)にあふれ、固有種の海鳥を襲っている。大型のネズミであるラットの方が被害は大きいが、小さなネズミも大きな損害を与えている。南太平洋の島では、無防備なアホウドリのひなを、ネズミが捕食する光景が撮影されている。
だが、アイランド・コンサベーションの計画は環境保護派を二分している。一部の学者にいわせれば、あっという間に自然界を変えてしまう遺伝子ドライブは悪魔との取引だ。遺伝子ドライブの研究を続けるアイランド・コンサベーションに反対してサポートを打ち切った環境弁護士のクレア・ホープ・カミングズは「環境保護とは自然界を尊重することであって、改革することではありません」という。
遺伝子ドライブの支持者ですら、研究は非常に慎重に進めるべきとしており、さらには、いわれているほど効果がないかもしれない、とまでいう。全米アカデミーズは昨年「数件の研究室内における概念実証」は「遺伝子ドライブに生まれた生物を自然環境に適用する意思決定の根拠」にするには不十分だとの見解を示し、慎重に研究を進めるべきと勧告した。
とはいえ、遺伝子ドライブの可能性を無視できない。19世紀以来、ニュージーランドの飛べない鳥は西洋諸国から持ち込まれた外来種に侵入され、行き場を失っている。2017年、ニュージーランド政府は30年以内に何億匹ものラットやポッサム、オコジョを駆除する「捕 …
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