ネット画像で顔認識、「クリアビューAI」に迫る規制包囲網
ソーシャルメディアなどからプロフィール画像を収集し、個人を識別する顔認識システムに利用しているクリアビューAIに対する風当たりが強くなっている。英国では罰金やデータの削除を求める命令が出され、欧州各国で同様の動きがある。 by Melissa Heikkilä2022.05.27
物議を醸している顔認識システムを手がける企業、クリアビューAI(Clearview AI)は、Webやソーシャルメディアから英国市民の顔の情報を収集したとして、英国のデータ保護当局からおよそ1000万ドルの罰金を科された。併せて、同社が保有する英国国民の画像データをすべて削除するよう命じられた。
クリアビューAIをめぐっては欧州各地で罰金命令が続いており、注目されている。英国の情報コミッショナー事務所(ICO:Information Commissioner’s Office)による今回の措置は、その中でも最新のものだ。世界中のデータ保護当局が、同社の事業に厳しい規制をかけることを視野に入れている。
ICOが明らかにしたところによると、クリアビューAIはデータ保護法に違反し、市民の同意なしに無断で個人データを収集していたという。また、市民がデータベースに登録されているかどうかを確認する際に、写真などの追加情報を要求していた。そしてこの仕様が、自分のデータを収集されることに異を唱える人々にとって「阻害要因として作用した」可能性があるとしている。
「クリアビューAIは、そうした人々の特定を可能にするだけでなく、その行動を事実上監視し、商業サービスとして提供している。これは容認できることではありません」と、英国の情報コミッショナーであるジョン・エドワーズは、声明の中で述べている。
クリアビューAIが誇るデータベースは、200億枚もの顔画像からなる世界最大級のものだ。ソーシャルメディアなど一般に公開されているインターネット上の画像から、本人の同意なしにかき集めたものである。警察などの顧客は、データベースへのアクセス料を支払って、一致する人物を探している。
西側諸国のデータ保護当局は、この行為が明らかなプライバシー侵害であると判断し、現在、協力して取り締まりを始めている。 エドワーズは「2022年において人々のプライバシー権を守るには、国際協力が不可欠」と強調しており、今週、ブリュッセルで欧州諸国の規制当局と会談する予定だ。 クリアビューAIに対する英国の調査は、オーストラリアの情報コミッショナーと共同で実施された。
今年初め、イタリアのデータ保護当局はクリアビューAIに対し、データ保護法違反で2000万ユーロ(約2100万ドル)の罰金を科した。オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツの当局も同様の結論に達している。
連邦法としてのデータ保護法を持たない米国でも、クリアビューAIに対する監視の目は厳しくなっている。今月初め、米国自由人権協会(ACLU:American Civil Liberties Union)は重要な合意を勝ち取り、クリアビューAIは全米のほとんどの企業にデータベースを販売することを禁じることとなった。生体データに関する州法があるイリノイ州では、クリアビューAIは5年間、誰に対しても(警察であっても)データベースへのアクセス権を販売することはできない。
英国に拠点を置くデジタル権利団体ビッグ・ブラザー・ウォッチ(Big Brother Watch)の理事を務めるシルキー・カルロは、ICOの決定について「クリアビューAIが英国で事業をすることを事実上禁じるものです」とツイッターで述べている。
さらにカルロ理事は、今回の決定を「顔認識技術の息の根を止めるようなもののはずです」と述べ、英国の議員に顔認識による監視を禁止するよう呼びかけた。
欧州では、顔認識などの「リアルタイム」遠隔生体認識システムを、公共の場で利用することを禁止できるAI規制法の策定が進められている。現在の草案では、テロや誘拐などの重大犯罪の捜査でもない限り、法執行機関による顔認識システムの利用を制限する内容となっている。
EUがさらに踏み込む可能性もある。大きな影響力を持つEUのデータ保護当局が求めているのは、公共の場での遠隔生体認識だけでなく、クリアビューAIなどがWebスクレイピングしたデータベースを警察が使用することを禁ずるということだ。
「クリアビューAIは急速に有害性を増しており、信頼できる法執行機関や公的機関、その他の企業は彼らと仕事をしたがらないでしょう」と、デジタル権利団体の欧州デジタル・ライツ(European Digital Rights)で顔認識と生体認証の問題に取り組むエラ・ヤクボウスカは話す。
クリアビューAIのホアン・タン・タットCEO(最高経営責任者)は、ICOが「私の技術と意図を誤解した」ことに失望していると述べた。
「我々はオープンインターネットから一般公開されているデータのみを収集し、プライバシーと法律に関するすべての基準を遵守しています」とタットCEOはMITテクノロジーレビューへの声明の中で述べている。
さらに「指導者や議員との対話ができるこの機会を歓迎します。法執行機関にとって必要不可欠であることが証明されたこの技術の真価が、地域社会の安全を守り続けることにつながるでしょう」とタットCEOは付け加えた。
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- メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
- MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。