ある動画が先月、ネット上で話題になった。動画にはサンフランシスコの警察官が、夜間にもかかわらずヘッドライトを点灯していない車を停止させる様子が映っていた。ただし、これは普通の車ではなかった。警察官が車に近づくと、画面外から誰かが 「誰も乗ってないぞ!」と叫んだ。この車はゼネラルモーターズの子会社であるクルーズ(Cruise)の車で、完全にもぬけの殻だったのだ。警察官が同僚の方を振り向くと同時にロボタクシーは発進し、交差点を横切って停車した。その後2分間にわたって映し出されていたのは、警察官が車の周りをうろうろしながら、どうすればいいのか考えている様子だった。
警察官が混乱する様子は確かに見物だった。ほんの10年前までは魔法のように思えたものが、日常の中に現れたのだから。だが、自動運転車が普及するにつれ、誰が運転しているのかをどう判断するのか? という問題はますます重要になるだろう。
近い将来、自動運転車は日常に簡単に溶け込むようになる。現在多くの自動運転車の目印となっている、屋根に搭載されたライダー(LiDAR:レーザーによる画像検出・測距)センサーは、今後さらに小型化される可能性が高い。メルセデス車には、一部自動化された新型ドライブ・パイロットシステムが搭載されており、ライダーセンサーは車のフロントグリルの裏にある。すでに肉眼では、普通の人間が運転する車と見分けがつかないほどだ。
これは良いことなのだろうか? 私はユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの「Driverless Futures(ドライバーのいない未来)」プロジェクトの一環として、同僚たちと共同で、自動運転車と交通ルールに対する市民の意識調査を実施した。英国市民4800人を対象にした、最大かつ最も広範囲にわたる調査である。専門家への50回以上の綿密なインタビューを経て選んだ問いの1つが、「自律走行車に表示を付けるべきか」というものだった。調査での民意は明らかで、回答者の87%が「自動運転車が走行している時は、他の道路利用者にも分かるようにしなければならない」という意見に「そう思う」と答えた(「そう思わない」と答えたのはわずか4%で、残りは「分からない」と答えた)。
同じアンケートを、より小規模な専門家グループにも送った。専門家の意見は割れ、44%が「そう思う」と回答した一方で、28%が自動運転車であることを示すことに反対した。問題は単純ではない。どちらの主張にも正当性があるのだ。
まず、原則として言えることは、ロボットと関わるのであれば、人間にはその事実を知る権利がある。これは2017年に持ち出された議論で、英 …