KADOKAWA Technology Review
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世界初のブタ心臓移植患者、
ウイルス感染が死亡の一因か
University of Maryland School of Medicine
生物工学/医療 Insider Online限定
The gene-edited pig heart given to a dying patient was infected with a pig virus

世界初のブタ心臓移植患者、
ウイルス感染が死亡の一因か

2022年1月に実施された、遺伝子操作されたブタの心臓を人間に移植する初めての異種間移植は、2カ月後の患者の死亡という結果に終わった。移植した臓器がブタウイルスに感染していた可能性が指摘されている。 by Antonio Regalado2022.05.09

2022年1月、米国の患者に移植されたブタの心臓は、ブタウイルスに感染していた。このことが、画期的な手術の失敗と、2カ月後の患者の死亡につながった可能性があると、移植の専門家たちはいう。

1月当時、瀕死の状態だったデービッド・ベネット・シニアは、遺伝子編集されたブタの心臓を移植された。生物種を横断した初の異種間移植であり、手術は成功したと賞賛され、当初は上手くいっていた。

ブタの心臓に入れ替えてから数日後、ベネットはベッドに座っていた。移植を担当したメリーランド大学医学部のバートリー・グリフィス教授によれば、ベネットの新しい心臓は素晴らしいポンプ機能を持ち、「ロックスター」のように機能しているとのことだった。

しかし、約40日後、57歳だったベネットの容態は悪化し、2カ月後に死亡した。3月に大学が発表した声明の中で、広報担当者は「彼の死の時点では、明らかな原因は特定されていません」と述べ、報告書を待っているところだとした。

これまでのMITテクノロジーレビューの調べにより、ベネットの心臓は、移植に壊滅的な影響を与え、また予防可能な感染症である、ブタサイトメガロウイルスに感染していたことが分かった。

ブタウイルスの存在と、それを克服するための必死の取り組みは、4月20日に米国移植学会がオンライン配信したウェビナーでグリフィス教授が説明したものだ。この問題は現在、専門家の間で広く議論されている。専門家たちは、ウイルス感染がベネットの死の一因であり、心臓が長持ちしなかった理由である可能性があると考えている。

「ベネットが死亡した原因がわかり始めています 」とグリフィス教授は言う。ブタウイルスが 「氏の死亡の原因となった可能性があります」。

メリーランド州で実施されたこの心臓移植は、異種間移植(種間で組織を移動させるプロセス)の大きな実験であった。しかし、臓器を提供するために育てられた特別なブタはウイルスに感染しているはずがないと考えられるため、この実験は自然発生的なミスによって失敗した可能性があると考えられる。移植に使われたブタを飼育し、開発したバイオテクノロジー企業であるリバイビカー(Revivicor)はコメントを拒否しており、ブタウイルスについて公的声明を出していない。

「驚きでした。すべてのブタの病原体は除去されているはずですから。これは重要なウイルスです」と、同じく移植臓器用にブタを飼育している競合会社、イージェネシス(eGenesis)のマイク・カーティスCEO(最高経営責任者)は言う。「臓器がウイルスに感染していなければ、ベネットは生きていたのかどうかは分かりません。しかし、感染症はよい方向に寄与はしていないでしょう。失敗に寄与した可能性が高いと思われます」。

10の遺伝子操作をしたブタ

ベネットの心臓からブタウイルスが検出されたことは、異種間移植にとって必ずしも、全く悪いニュースというわけではない。もし、ブタウイルスが要因の一つであれば、ウイルスのない心臓の異種間移植であればより長持ちする可能性があることになるからだ。外科医の中には、遺伝子操作された最新の臓器は、理論的には何年も鼓動し続けることができ、より厳密な手法を使えばウイルスを取り除けると考えている者もいる。

「もし、ベネットの死因が感染症であれば、将来的には予防できる可能性があります」とグリフィス教授は発表の中で述べた。

動物臓器移植の最大の障害は、人間の免疫システムである。免疫システムは、拒絶反応と呼ばれる仕組みで外来細胞を激しく攻撃する。拒絶反応を回避するために、各企業はブタの遺伝子操作をしている。ある遺伝子を削除したり、別の遺伝子を追加したりして、免疫の攻撃から移植した組織が隠れられるような性質を付与している。

メリーランド州で使われたのは、ユナイテッド・セラピューティクス(United Therapeutic)の子会社であるリバイビカーが開発した10の遺伝子を操作したブタのものであった。

遺伝子を操作したブタの臓器をヒヒに移植した際の有望性を示す試験を踏まえて、米国の3つの移植チームが2021年後半から最初のヒトへの実験を開始した。ニューヨーク大学とアラバマ大学の外科医はそれぞれ、脳死者にブタの腎臓を移植したが、メリーランド大学ではさらに一歩進めた。1月上旬にグリフィス教授が、ベネットの胸にブタの心臓を埋め込んだのである。

各種ブタウイルスのヒトへの感染が以前からの懸念であった。もし患者の体内でウイルスが適応し、医師や看護婦に感染が広がれば、異種間移植によりパンデミックが引き起こされるのではないかと心配する人もいる。この懸念は、患者を生涯にわたって監視しなければならないほど深刻なものである。

しかし、マサチューセッツ総合病院の移植感染症の専門家であるジェイ・フィッシュマン医師によれば、ベネットの心臓のドナーから見つかったタイプのブタウイルスは、ヒトの細胞に感染する能力があるとは考え …

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