インドに記録破りの猛烈な熱波が襲来、気候変動の影響色濃く
4月下旬、インドは猛烈な熱波に襲われ、最高気温を更新している。一部の州では最高気温が43℃に達しており、冷房を利用できない人にとっては命取りになりかねない事態だ。 by Casey Crownhart2022.05.01
4月下旬、年間で最も暑い時期に突入したインドとパキスタンは熱波に見舞われ、最高気温を更新している。
インド気象局(IMD)によると、インドの一部の州では最高気温が43℃に達した。インド北西部では今後、さらに気温が上昇する可能性がある。
特に、多くの人が冷房を利用できない地域にとって、この熱波は致命的だ。また、気候変動によって熱波がより頻繁に、より激しくなっており、南アジアなどでは猛暑日がより長く続くようになっている。
インド工科大学ボンベイ校の気候研究者であるアルピタ・モンダル教授は、「今回の熱波は、時期と広がり方が特に問題です」と指摘する。例年、この地域の気温はモンスーン雨で暑さが和らぐ直前の5月から6月にかけてピークになるという。 しかし今年は特に猛暑で、特にその時期が早い。今年の3月は最高気温を記録する記録的暑さとなり、月平均気温は33.1℃だった。
この猛暑の問題はインド全体に広がっており、インド北西部や南東部の典型的な高温地帯だけでなく、それほど猛暑に慣れていない地域にも影響を与えていると、モンダル教授は述べる。しかも、今シーズンはこれまで雨が少なかったため、その影響はさらに深刻だ。
カリフォルニア大学アーバイン校の気候研究者であるアミール・アガコチャック教授は、「これはより広範な気候変動の警告の一部です」と述べる。世界銀行のデータによると、インドの年平均気温は、1901年から2020年の間に、100年ごとに0.62℃の割合で上昇している。最高気温はさらに急速に上昇しており、100年ごとに0.99℃の割合で上昇している。
アガコチャック教授は、「1℃や2℃程度の気温上昇であれば問題ないだろうと思うかもしれません。しかし、平均気温がわずかでも上昇すれば、異常気象が発生しやすくなるのです」と述べる。
気候変動が天候に与える影響は、時として把握しにくいことがある。しかし、熱波に関しては気候変動によって悪化していることに、研究者らは「非常に高い確信」を持っている、とアガコチャック教授は述べる。
熱波は人間の健康に破壊的な影響を与える可能性がある。2019 年の猛暑に関連する世界全体の死亡者数は、35万6000人に達する。猛暑は高齢者や子どもにとって最も危険だが、冷房が十分に利用できない人は、特に猛暑が何日も続き、夜になっても暑さが収まらない場合、誰でもその影響を受ける可能性がある。
気象予報や気象の早期警報システムは、人々が猛暑に備えるのに役立つ。また、インド気象局は近年、熱波の予報に力を入れ始めているとモンダル教授は言う。
しかし、発展途上国であるインドでは、熱波の間、多くの人が危険にさらされることになるのは変わりはない。2019年現在、インドの全世帯のうち、エアコンを持っている世帯はわずか約7%だ。また、日雇い仕事の収入に頼っている人々にとって、気温がピークに達する時に室内にいるという選択肢はないかもしれない、とモンダル教授は述べる。
一部の自治体は、この猛暑に適応しようと取り組んでいる。インド西部の都市アーメダバードでは、2010年5月に特に悲惨な熱波が発生した。この熱波による公式の死者数は800人に達し、間接的に熱波が原因とされる死者の数は最大1300人となっている。2013年、アーメダバードは住民への早期警告システム、医療従事者に対するトレーニング、建物の自然冷却を促進するため適応策などの暑さ対策を開始した。
その後、他の自治体もこれに追随して、猛暑に関する独自の計画を作成した。しかし、猛暑に適応するための国の取り組みを期待する声もあると、モンダル教授は述べる。
温室効果ガス排出量を削減することは、未来の最悪の地球温暖化シナリオを防ぐことにつながる。だが、現在起こっている現実はすでに多くの人にとって耐えがたいものとなっている。また、インドの人々の命に危険を及ぼす熱波は、気候変動の影響を最も受ける人たちの一例に過ぎない。
「この熱波の影響を受けるのは14億人のインドの人々です。しかしこの大半の人々は、地球温暖化を悪化させるようなことはほとんどしていません」とモンダルは言う。「この現象によって、人々がなぜ気候変動に関心を持つべきかという疑問に終止符が打たれるべきです」。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。