暗号通貨と中央銀行をつなぐ、MIT「お金の未来」研究者の挑戦
MITデジタル通貨イニシアチブのナルラ所長は、暗号通貨の世界と中央銀行の世界の橋渡しをするために奮闘している。中央銀行の後ろ盾のある暗号通貨ができれば、社会的に不利な立場にある人々に役立つ可能性があると考えているからだ。 by Ashley Belanger2022.05.06
昨年の夏、米上院の特別小委員会はリモートで会合を開き、中央銀行によるデジタル通貨(Central Bank Digital Currency:CBDC)導入のメリットについて検討した。CBDCは最適な設計がなされれば、米国の金融システムを変革し、多くの市民がより利用しやすいものになる可能性がある。熱心にノートPCの画面を見つめている上院議員たちにとって、デジタル通貨学校の初日のようなものだった。そして、この高度に技術的な世界を紹介するために、エリザベス・ウォーレン上院議員が最初に呼んだのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の「デジタル通貨イニシアチブ(DCI:Digital Currency Initiative)」のネーハ・ナルラ所長だった。
ナルラ所長はたった5分で、米国の通貨を見直すことで何が得られるのか、何が問題となり得るのかを説明した。上院で発言したのは初めてだった。「少し迷いながら参加しました」とナルラ所長は言う。
ナルラ所長が講義のトップバッターに選ばれたのには理由があった。「お金の未来」に関するテッド(TED)の2016年の講演動画が250万回視聴されるに至り、ナルラ所長はデジタル通貨という信じられないほど複雑で政治色の強いアイデアについて、驚くほど明確に伝えられることで世界的に有名になった。ナルラ所長は、真に理解している人はほとんどいない金融テクノロジーに関する、中立的で信頼できる情報源として浮上した。
ナルラ所長は、デジタル通貨が現在どのように機能しているかについてだけでなく、倫理、プライバシー、セキュリティ、衡平性、イノベーションなどに関する懸念に対処するために、どのように再設計できるかについて上院議員にわかりやすく説明した。CBDCを構築するかどうか、どのように構築するかを最終的に決定するのは政策立案者であることを、ナルラ所長は理解している。狙いは、すべての決定に伴うトレードオフを理解してもらうことだ。
例えば、ナルラ所長は上院議員に対して、商業銀行の口座を必要とし、現在の電子決済と同じように機能する「二層」のCBDCは、デジタル通貨の創出になぞらえてDCIで盛んに議論されている別の設計よりも、財政的な包括性が低く、継続的に改善することが難しい可能性があると述べた。一方で、もう1つの方法は新しいテクノロジーを必要とするものの、利用者が商業銀行に口座を持つ必要がなく、全国にいる約700万人の口座を持たない人が利用しやすいかもしれない。
ナルラ所長は2015年にMITでデータベースと分散システムの博士課程を修了した後、デジタル通貨の世界に足を踏み入れた。ナルラ所長は、人々の日常生活に影響を与える問題に対処するテクノロジーの構築に携わりたいと考えており、研究の方向性を見極めるために数カ月間の休みを取っていた。この休みの間、ナルラ所長はビットコインに興味を持った友人たちと長い時間を一緒に過ごした。2014年当時、ビットコインはキャンパスで大きな注目を集めており、MITの学生だったジェレミー・ルービンは、3000人以上の学部生にビットコインを100ドル分ずつ無償配布するイベントを開催するために、50万ドル調達するのを手伝っていた。
ルービンは自分の実験によってビ …
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