Web3、NFTに沸く 「暗号資産革命」の 地味で不都合な正体
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It’s okay to opt out of the crypto revolution Web3、NFTに沸く
「暗号資産革命」の
地味で不都合な正体

暗号資産関連企業は、ド派手なテレビCMや屋外広告を打つことで、より大勢の人を暗号資産取引に参加させようとしている。だが、彼らが謳う「金融革命」に現実味はなく、現時点で一般市民が賛同する必然性はなさそうだ。 by Rebecca Ackermann2022.05.12

広告スペースの拡大が示すように、暗号資産テクノロジーの時代が到来した。暗号資産関連の看板が、サンフランシスコではベイエリアを取り囲み、ロサンゼルスでは高速道路沿いに並んでいる。ニューヨークで電車に乗れば、通貨や取引所の広告に必ずと言っていいほど出くわすだろう。グウィネス・パルトローのような大スターが暗号資産プラットフォームを宣伝する一方で、今年のスーパーボウルのテレビ放送は、巨額の予算を投じた暗号資産のスポットCMで溢れかえった。そこでは、レブロン・ジェームズがCGで忠実に再現した若い頃の自分に語っているように、一攫千金を狙い、「歴史を作る」チャンスであることが喧伝されている。

しかし、多額の費用をかけてまでありとあらゆる場所で宣伝しているにもかかわらず、暗号資産(クリプト=Crypto=と呼ばれる)とは何か、また広告費を投じてまでして景観を塗り替えようとしている暗号資産関連企業、たとえばビットコインなどの通貨や、FTX、コインベース(Coinbase)、クリプト・ドットコム(Crypto.com)などの取引所が、実際に何を販売しているのかの説明は多くの場合省かれている。それには理由がある。暗号資産業界は、リスクを負うだけの金銭的余裕とその手法を理解するだけの時間的余裕に恵まれた投機家たちにとっては有益なものだが、昨今の一般市民にとっては、ほとんど意味がないものだからだ。

「クリプト」という用語は、ブロックチェーン上で稼働するテクノロジーの総称のようなものとなっている。ビットコインやイーサ(Ether)といった暗号資産のみを指す場合も多いが、より広義には「Web3」と総称されるトークン化されたWebアプリケーション類を指す。ちなみに後者の大部分は、イーサリアム(Ethereum)ネットワーク上で動作している。これらのテクノロジーは、極めて奇怪なものが多く、将来性があるものもいくつかはあるが、大部分は詐欺としか思えないものだ。とはいえ、暗号資産テクノロジーは昨年、300億ドル以上のベンチャーキャピタル投資を集め、今年もこれまでに40億ドル近くを集めている。元連邦検察官のケイティ・ハウンが立ち上げた15億ドルのベンチャー企業のように、新たな暗号資産ファンドが誕生し、新興の暗号資産スタートアップ企業は設立からわずか数カ月で10億ドルの評価額を誇っている。パリス・ヒルトンもトーク番組「ザ・トゥナイト・ショー(The Tonight Show)」で自身のNFT(Non-Fungible Token)投資を大々的に宣伝している。準備ができていようといまいと、暗号資産はあらゆる人の元へと訪れつつあるのだ。

暗号資産信者は、同業界が商取引の分散化によって金融システムに革命をもたらし、これまで人々を裏切ってきた銀行や、偏ったアルゴリズムと高額の手数料でクリエイターやイノベーターを縛り付けてきた巨大テック企業の監視役から主導権を奪うことになると主張している。信者が掲げる共通理念は「WAGMI」、つまり「We're all gonna make it(私たちは皆成功する)」というものだ。コミュニティはこれをディスコード(Discord)やツイッター、さらにはランディ・ザッカーバーグの悪趣味なミュージックビデオで発信し、暗号資産の乱高下の中、大義への貢献を呼びかけている。

しかし、これまでのところ、暗号資産業界は大義として掲げている「民主化」という約束を果たせてはいない。「歴史的に見れば、このような主張は、すでに強大な権力と特権を持っている人々が中心となって生まれることが多く、新たな分野で権力を再び確保、強化しようとすることから始まるのです」とマー・ヒックスは語る。ヒックスは、テクノロジー、ジェンダー、労働史を専門とする歴史学者で、『Programmed Inequality(組み込まれた不平等)』の著者だ。確かに、少数の幸運な投資家を除けば、暗号資産テクノロジーの富は、主に暗号資産関連企業の幹部や長年活動しているシリコンバレーのベンチャーキャピタルに流れているようだ。彼らは、暗号資産業界が発展を続けられるよう、一般市民が投資を続けることを必要としているのだ。2021年9月の時点で、世論調査を受けた米国民のほぼ10人に9人が暗号資産について耳にしたことがあると回答したが、そのうち利用したことがあると回答したのは、わずか16%だった。一方で、数十億ドルが暗号資産の詐欺や不正によってすでに失われている。

暗号資産テクノロジーが金融やWebの未来をどのように変化させるのか、具体的なビジョンは見えておらず、暗号資産を購入しても、それによって実際にできることはごく限られている。とはいえ、暗号資産業界は今や見過ごせない規模に膨れ上がっている。資金を投じた数々の宣伝は無視できても、暗号資産テクノロジーが社会に及ぼす影響については、自ら望んで関与するかどうかにかかわらず、誰もが実感するものとなるだろう。

そして、セレブたちによる喧伝の陰に隠れて、有益な変化が起こりつつある。暗号資産が基盤とする分散型ブロックチェーン・プロトコルは、旧来の金融業界や製薬業界などのバックエンドに入り込み、スピードや取引の透明性など、現実的でありながら裏方的なメリットをもたらしている。理想主義的な美辞麗句、規制当局との攻防、Webプラットフォームの再編の可能性といった問題を乗り越えれば、暗号資産が歴史に残す最も永続的な貢献は、世界規模の金融革命というよりも、Bluetoothのような目に見えないプロトコルに近いかもしれないと気づくだろう。

暗号資産業界を理解するには、まずはその中心的な3つの要素を切り離す必要がある。それは、スーパーボウルの広告では避けられていたことだ。その代わりと言っては何だが、お決まりのフレーズを羅列したり、歴史劇の衣装に身を包んだコメディアンのラリー・デイヴィッドを登場させている。

まず最初の要素は、「暗号資産」だ。暗号資産は世界中に1万種類以上も存在し、特に人気があるものとして、イーサ(Ether:ETH)とビットコイン(Bitcoin:BTC)が挙げられる。暗号資産には、コインとトークンの2種類がある。その違いは、音節が少々異なるくらいの曖昧なものに見えるが、本質的にはトークンは資産(たとえば講義への参加権、または契約などの物理アイテムのデジタル表現)を指す。対してコインには購買力があり、トークンの購入や、将来的にはその他の多種多様な商品の購入に使えるものだ。

2つ目の要素は「ブロックチェーン」だ。英語では単数形で「blockchain」と表記するが、実際には複数のものを指す。ブロックチェーンとは、バックエンド・プロトコルの一種であり、(銀行などの従来の機関に代わって)「合意形成メカニズム(Consensus Mechanisms)」を使って変更を承認し、(私的な記録ではなく)目に見える台帳にその変更を記録するものである。ブロックチェーンの歴史は暗号資産の歴史と絡み合っている。サトシ・ナカモトと名乗る偽名のエンジニア、もしくはエンジニアグループは、このプロトコルを用いて、米国金融危機真っ只中の2008年にビットコインを考案した。ビットコインは銀行などの中間業者を排除し、「信頼できる第三者を介さずに、意思のある二者が直接取引できる」新たな形の非中央集権型システムとなることが期待された。ナカモトが記すには、ブロックチェーンを用いることで、金融は完全にピア・ツー・ピアとなり、各取引(トランザクション)は不変の記録としてブロックチェーンに追加されていく、という。

3つ目の要素は、「Web 3.0」あるいは「Web3」と呼ばれる、2014年にイーサリアム・プロジェクトの共同創設者であるギャビン・ウッドによって作られた造語だ。ウッドはナカモトのアイデアを発展させ、完全な非中央集権型のインターネットを提唱した。Web3では、セキュリティ、ストレージ、決済、その他インターネットの稼働を支えるあらゆる事柄をアマゾンやグーグルなどの巨大テック・プラットフォームに頼るのではなく、個人がデジタルトークンを使ってオンラインで取引できる。Web3とは、暗号資産とブロックチェーンのコンテナ的概念で、個人がさまざまな暗号資産をデジタルウォレットに保管し、他の人々から商品やサービスを購入したり、お気に入りのコンテンツのクリエイターにチップを渡したりできる、全く新しい形のデジタル・エコノミーを想定したものだ。この(まだ理論上の)ビジョンでは、Web3の世界は巨大なショッピング・モールに例えられる。モールの各ショップはギフトカードによる支払いを受け付けている。ギフトカードは、顧客がこの世界に足を踏み入れる前に本物の貨幣で購入する必要があるものだ。多くの企業がこのビジョンを実現するために取り組んでいるとされているが、今日最大の「Web3」ビジネスはまだ暗号資産取引所、暗号資産、またはそれらをサポートするツールに限定される。とはいえ、莫大な資金が動いている以上、その状況もすぐに変わるのかもしれない。

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