KADOKAWA Technology Review
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AI・デジタル技術はなぜ、
経済成長をもたらさないのか
Ian Grandjean
人工知能(AI) Insider Online限定
AI’s inequality problem

AI・デジタル技術はなぜ、
経済成長をもたらさないのか

人工知能(AI)などのデジタル技術の進歩は、大きな経済成長を生み出さないばかりか、所得や富の格差を拡大する原動力となっている。「人間のような機械を作る」という目的は、単に労働者を機械に置き換えることになりがちだ。 by David Rotman2022.05.06

人工知能(AI)をはじめとするデジタル技術の進歩により、経済は大きな変貌を遂げつつあり、私たちの暮らしや働き方も急速に変化している。しかし、この変革は厄介な問題を投げかけている。これらのテクノロジーが経済成長にさほど寄与していないうえに、所得格差を助長しているという問題だ。経済学者が生活水準の向上に不可欠と考える生産性の伸び率は、少なくとも2000年代半ば以降、多くの国で大きく伸び悩んでいる。

なぜこれらのテクノロジーは、より一層の経済成長をもたらさないのだろうか?また、なぜもっと幅広い繁栄に結びつかないのだろうか?その答えを探るため、優れた経済学者や政策専門家が、AIや自動化の開発・導入方法をより詳細に検証し、より望ましい選択をするための道を模索している。

スタンフォード大学デジタルエコノミーラボの所長を務めるエリック・ブリニョルフソン教授は、『チューリングの罠:人間らしい人工知能がもつ有望性と危険性(The Turing Trap: The Promise & Peril of Human-Like Artificial Intelligence)』と題した評論文の中で、AI研究者と企業が人間の知能を再現する機械の構築に注力している様子について綴っている。この題は言うまでもなく、アラン・チューリングと彼が1950年に考案した、かの有名な「チューリングテスト」にちなんだものだ。このテストは、機械が知性を持つか否かを判定するためのもので、人間を模倣した機械を、人間が見分けることができるかを調べるというものだ。以降、多くの研究者がこの目標を追い求めてきたとブリニョルフソン教授は言う。しかし同教授によると、人間の知能を模倣させることに固執した結果、AIや自動化は、人間の能力を拡張し、新しいタスクを可能にするものではなく、単に労働力を置き換えるだけのものになりがちだという。

経済学者であるブリニョルフソン教授にとって、単純な自動化は価値を生み出す一方で、所得や富の格差を助長する恐れのあるものだ。人間らしいAIを過度に追い求める余り、こうしたテクノロジーを所有し支配する「ごく少数の人々の市場支配力が増強」され、大多数の人々の賃金を引き下げることになるとブリニョルフソン教授は記している。この評論文で同教授は、多くの米国人の平均実質賃金が下落しているなかでの億万長者の隆盛は、機能拡張よりも自動化に重点が置かれていることが「唯一にして最大の理由」であると主張している。

ブリニョルフソン教授は技術革新に反対する「ラッダイト」ではない。そのことは2014年、アンドリュー・マカフィーとの共著で『ザ・セカンド・マシン・エイジ(原題「The Second Machine Age: Work, Progress, and Prosperity in a Time of Brilliant Technologies」)』と題した本を出版していることからもお分かりいただけるだろう。しかしブリニョルフソン教授は、AI研究者の考え方はあまりにも限定的だと指摘する。「多くの研究者と話をすると、みんなこう言います。『私たちの仕事は、人間のような機械を作ることだ』と。それは明確なビジョンではあります」とブリニョルフソン教授は言う。しかし、「同時に、それはある種の怠慢であり、低いハードルでもあるのです」と付け加える。

単に労働者を置き換えるのではなく、AIを使って新しい商品やサービスを作り出す方が、長期的に見るとはるかに多くの価値を創出できるとブリニョルフソンは主張する。しかし、コスト削減を第一に考える企業にとっては、プロセスを見直し、AIを活用したテクノロジーに投資することで、自社製品の拡張や従業員の生産性向上を図るよりも、単に労働力を機械に置き換える方が簡単な場合が多いという。

最近のAIの進歩は目覚ましく、無人乗用車から人間に近い言語モデルまで、あらゆる分野で活用されている。しかし、このテクノロジーの方向性を示すことは非常に重要となる。研究者や企業がこれまで選んできた道は、新たなデジタル技術を所有したり、発明したりする人々に莫大な富をもたらす一方で、置き換えられる恐れのある職種に就く人々の機会を奪うというケースがあまりにも多く見られた。これらの発明は、サンフランシスコやシアトルのような一握りの都市で好条件の技術職の雇用を生み出してきた一方で、その他大多数の人々を置き去りにしてきた。しかし、そうである必要はないはずだ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者であるダロン・アシモグル教授は、人間の労働者が担う作業を代替する自動化、ロボット、アルゴリズムが、米国における賃金上昇の鈍化と格差拡大に及ぼした影響について、説得力のある証拠を提示している。実際、1980年から2016年までの米国における賃金 …

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