読者が選んだ、次に来る技術
「老化時計」とは何か?
MITテクノロジーレビューが発表した「ブレークスルー・テクノロジー10」の読者投票(米国版)で、もっとも多くの読者から「次に来るテクノロジー」として挙げられたのが「老化時計(エイジング・クロック)」だ。研究はまだ道半ばだが、いずれ健康状態を把握する指標として健康診断で利用されるかもしれない。 by Jessica Hamzelou2022.04.20
年齢とは、あなたが迎えた誕生日の回数のことだけではない。ストレス、睡眠、食事はすべて、日常生活による臓器へのダメージの度合いが影響する。同じ日に生まれた人でも、これらの要因によって、老化速度が早かったり遅かったりすることがある。その結果、人間の「生物学的年齢」は、これまで生きてきた年数、つまり暦年齢とは大きく異なってくる可能性があるのだ。
生物学的年齢は、暦年齢よりも身体的健康状態や死亡率をより正確に反映している。しかし生物学的年齢の算出は、単純という言葉からは程遠い。科学者たちはこの10年間、体内にあるマーカーを測定して生物学的年齢を割り出す、「老化時計(エイジング・クロック)」と呼ばれるツールの開発に尽力してきた。
老化時計の大きな狙いは、臓器の劣化度合いを測定して、残りの健康寿命を予測することにある。過去10年間で何百種類もの老化時計が開発されてきたが、その正確さは千差万別だ。そして、研究者たちはいまだに本質的な問いと向き合い続けている。それは、生物学的に若いとは何を意味するのか、というものだ。
老化時計の多くは、エピジェネティックマーカーのパターンに基づき、人の生物学的年齢を推定している。エピジェネティックマーカーの中でも有名なものに、メチル基と呼ばれる化学的タグがあるが、これがDNAの表面を覆うことで、遺伝子発現に影響を与えている。また、DNA上の何千という部位に存在するこのメチル化のパターンは、加齢とともに変化すると言われているが、その原因はよく分かっていない。
老化時計には、身体の老化具合を推定して寿命を予測するものや、スピードメーターのように老化速度を示すものなどがある。そして、身体の特定の臓器を対象とするものや、さまざまな動物種を対象とするものも開発されてきた。
老化時計の考えに賛同する人たちはすでに、老化時計を使って、アンチエイジング対策によって人が生物学的に若返ることができると示そうとしている。しかし我々は、そのような議論をするほどには老化時計について、あるいは老化時計が何を示しているのかについて、十分な知識を持ってはいない。
時間を追跡する
最初のエピジェネティック老化時計が開発されたのは、2011年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校公衆衛生学部のスティーブ・ホーヴァス教授が、一卵性双生児の弟マーカスと共に、ある調査研究への参加を志願したのがきっかけだった。この研究では、唾液サンプルを使って、性的指向の理由を明らかにする可能性のあるエピジェネティックマーカーを探索していた(スティーブはストレート、マーカスはゲイだ)。
生物統計学者であるホーヴァス教授は結果の解析を申し出たが、性的指向との関連は見出せなかった。しかし、同教授は調査参加者の年齢とエピジェネティックマーカーとの関連性も探った。「加齢と共にシグナルの値が高くなることを発見した瞬間、私は思わず椅子から転げ落ちました」とホーヴァス教授は振り返る。
そう、ホーヴァス教授は、メチル化パターンが人の実年齢を予測できることを発見したのだ。しかし、その予測値には各人の暦年齢から平均で5歳程度の誤差があった …
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